我が家の庭の訪問者(その3-2) |
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我が家の庭に棲みついたチョウ | |||||||
(3-2) アカボシゴマダラ その2 夏型の生態観察 | |||||||
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我が家の庭に棲み着いていることが確認されたアカボシゴマダラの生態を追跡して紹介する。この家に住んで5年目となるが、初年度から庭でアカボシゴマダラが確認された。近隣で普通に発生していることは、市の蝶愛好家の仲間からうかがっていたが、実際にこの目で見ると、好ましくない外来の蝶だと言われていてもどこか嬉しいものがある。庭で見たアカボシゴマダラはとても新鮮な、まるで生まれたばかりのように翅を輝かせた固体であったが、この時、我が家の庭でアカボシゴマダラが発生しているとは夢にも思わなかった。 我が家の家には30cm〜2mくらいの数本のエノキが生垣と混生している。おそらく野鳥が落とした糞に含まれた種から成長したに違いない。じつは、このエノキでアカボシゴマダラが発生していたことが、2015年の秋に偶然さなぎの抜け殻を見つけたことからに初めてわかったのだ。その後、ときおり庭のエノキを観察し続け、気がつかなかった生態をかんさつすることができるようになった。そこで、この12月からはじめた観察により明らかになってきたアカボシゴマダラの我が家の庭での生態について、時間の経過とともに記録しながらその情報を紹介することにしよう。 |
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我が家におけるアカボシゴマダラ 夏型の生態観察 (卵からの成長観察) | ||
2017年8月7日、今年もブドウにやってきた 毎年、ブドウ(デラウェア)が色づいてきた頃、カナブンやカブトムシに混じって、アカボシゴマダラがやってくる。我が家の夏の風物詩のようだ。これを期待して、デラウェアの一部には袋をかけないで虫たちに開放している。カナブンやカブトムシに荒らされるのはチョッと悔しいけど、アカボシゴマダラの来訪に慰められる。毎年、オオムラサキが来ないかと期待しているのだが、いまだ一度もお目にかかったことはない。まあ、自然の恵みをいろいろな虫さんにたちにもお裾分けすることにしよう。 |
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2016年7月25日、 しばらく姿を見なかったアカボシゴマダラが、たくさんの幼虫が越冬していた食草エノキの周りを飛びまわっているのを見かけた。しばらくして、新しい葉の上に産卵する姿を観察した。写真を撮ろうとしたとき、この母蝶はエノキの葉・枝の隙間をかいくぐりながら奥の茂みに入り込み、親指の太さほどのエノキの幹を下り、さらに深い茂みの中にその身を沈めていった。その大きな腹を下に下げたまま移動していたので、いかにもあちこちに産卵しているように見えたのだが・・・実際に、その近くの葉や幹に産卵しているのどうか確認したかったものの、よく見えないし、写真も撮れなかった。暫くして、明るみに出てきた母蝶は、すばやく飛び去っていった。しかし、最初に産卵したエメラルドのように美しい卵は確認され、写真を撮ることができた ・・・ようやく ・・・ なかなか見つけられなかったから。この卵の成長、ネットを掛けて観察し続けるようにしよう。 |
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生まれたてのアカボシゴマダラの卵 |
2016年8月1日 孵化直前の卵 |
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アカボシゴマダラの卵の抜け殻 アカボシゴマダラもゴマダラチョウも、殻から飛び出した1令幼虫は抜け出した殻を食べないようで、殻は球形を保ったままに残される。 0.7mm前後の卵は、ゴマダラチョウのタマゴより少し大きいように見え、殻に見られるスジの数は19本で、ゴマダラチョウのそれより1本少ないようだ。スジの数は個体差かな? |
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2016年7月30日、一瞬孵化と思ったが、レンズを通して拡大してみると、卵に興味を持った小さな蜂のようだ。ところがしばらくして、、一日中頻繁に卵の周りを巡回しているクロアリが、瞬時にこの蜂をくわえて去っていった。詳細には分からないが、やはり、アリはチョウのライフサイクルに深く関わっている(保護している)のだろうか? | ||
孵化して間もない1令幼虫(5mmくらい) |
孵化して間もない1令幼虫(5mmくらい) |
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2令に脱皮した幼虫。写真(下)ではアップして撮影しているのでさほどは小さくは見えないが、実際のサイズは7〜8mmくらいと意外に小さい。この2令幼虫の尾部突起は開いている。ネットで確認すると、アカボシゴマダラとゴマダラチョウの1令幼虫のそれは共に開いている。しかし2令になると、アカボシゴマダラでは閉じると思われる。左の写真では突起は開いていることから、この幼虫はアカボシゴマダラではなくゴマダラチョウと思われる。そこで、今まで撮影した幼虫の写真を整理すると、その判別が明確となり、それぞれの記録内容を組みなおし訂正することにした。 | ||
参照:ゴマダラチョウの2令幼虫(写真上) |
アカボシゴマダラ(3令) ゴマダラチョウ(3令) |
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アカボシゴマダラの2令幼虫 |
アカボシゴマダラの2令幼虫 |
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幼虫は探そうとしても見つかるものではない。本当に不思議。何度も何度も、何日もかけて探していた場所、何も見つからなかった場所からふと幼虫が見つかることがある。そして、目につき始めると次から次に見つかるようになる。経験的に、アカボシゴマダラが好んで産卵するエノキは比較的低いもの多く、下枝が張った2〜3mのものが最適のようだ。そして、産卵する場所は北向きで、地面からの高さは50〜100cmくらいのかなり低い位置を好む。従って、幼虫や卵を見つけたい時には頭を下げ、うつむいて探すとよいだろう。 |
7月29日、新たに見つけた15mmほどの3令幼虫 |
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8月7日、 3令から4令に脱皮したところ。大きな触覚が特徴的。この異様な姿が、いきなり目に飛び込んできた。 なかなか見つからない幼虫でも、ふと ・・・ 目に留まることがある。探しても、探しても・・・見つからなかったのに。 もっと心眼を磨かなければ。 |
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2016年 8月9日、 →(赤)はアカボシゴマダラの4令幼虫 円(赤)はゴマダラチョウ3令幼虫、 一つの枝に、アカボシゴマダラとゴマダラチョウの幼虫が同時に観察できる。アカボシゴマダラノ幼虫はゴマダラチョウのそれと比べると、すこし太めで体格が良いように見える。 |
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7月26日、偶然に見つけた4令幼虫 意外に見つけられないのが幼虫の姿。今までの状況から、卵はたくさん産み付けられ、幼虫もたくさん居るはずなのに・・・。不思議なことに、探しても探しても見つからなかった幼虫が、ふとした時に目に留まることがある。確かに、擬態や保護色は効果があるに違いない。身をもって体験したことになる。写真右は偶然に見つけた4令幼虫で、それも並んで2頭も。今まで、どうして見つけられなかったの? |
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7月31日、5令に脱皮し、その皮を食餌している |
8月1日、終令幼虫の顔(正面) |
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8月5日、太って大きくなってきた |
8月8日、見つけ出した蛹 |
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8月7日、 2頭の終令幼虫が同時に不明 毎日、庭を巡回する度に幼虫を確認していた。ところが、前記の2頭の終令幼虫(上記)が共に姿を消していた。まだ、前蛹になるほどの変化は認められていなかったので、さほど注目はしていなかった。翌日、周りの枝や葉裏を精査すると、きれいな蛹を見つけた。少し離れて眺めると、蛹は茂みに隠れて簡単には見つけ出せない。まるで、隠し絵のよう。夏型の終令幼虫は丸々太って、いかにも前蛹になりそうな形態にはならないようだ。一方、もう1頭の幼虫(蛹)はどうしても見つけ出せなかった。 |
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8月15日、アカボシゴマダラの羽化 上記の蛹が羽化した。そろそろとは思っていたが、この猛暑にチョッと注意力が散漫になっていたのだろう。羽化したての、とても大きな美しい姿を目の当たりにするまで、完全に忘れていた。羽化してからかなり時間が経っているようで、チョウの翅は既にしっかりと固まっているようだ。赤いホシが鮮やかで美しい姿に、しばし見とれていた。赤い円は、写真上に示した蛹。蛹の期間は、約1週間となる。 |
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2017年9月20日、交尾・・・? 先日の台風18号が過ぎた後、秋型と思われる新しく誕生した個体が一斉に登場してきたようで、チョウの様相が一変したように思える。キタテハは濃褐色で翅の凸凹が際立つ個体が一挙に増え、アカボシゴマダラも新しく誕生したと思われる個体がエノキの周りを追いかけあいながら飛び回っている。縺れあった2頭のアカボシゴマダラが近くに静止したので、交尾が始まるかとカメラを構えて接近したところ、残念ながら雄が飛び去って行った。私が邪魔しちゃったかな?(写真左下) また、病気で傷んだエノキの葉に産卵する姿も頻繁に見かける(写真右下) |
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2017年9月21日、落下した柿の実の汁を吸う 普通なら樹液を吸うゴマダラチョウやアカボシゴマダラだが、我が家の近くではいったい何を食しているのだろうと、いつも疑問に思っていた。というのも、この近くには樹液を出すようなクヌギなどの樹々は全く見当たらないからだ。ここから2Kmほど離れたところには適切な樹林があるが、我が家の庭とその樹林を行来しているとは思えない。それほどたくさんのアカボシゴマダラが、我が家の庭を飛び回っている。お盆を過ぎれば熟したブドウ(写真上)、そして、秋になれば、熟して落下した柿の実の汁を吸う(写真右)ことは理解できるが、疑問の解決にはならないだろう。 |
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2016年10月19日、越冬幼虫への成長 庭のエノキを精査してみると、すでに10頭を超えるごマダラチョウとアカボシゴマダラの幼虫が見出される。昨年まで、どうしても見つけられなかった幼虫を、見慣れたからであろうか・・・今では容易に見出すことができるようになった。庭の北東に位置するエノキは、マダラチョウとアカボシゴマダラの産卵に好まれるようで、近所のエノキを含めて最も多くの幼虫が見出される。また、今まで気がつかなかったゴマダラチョウの幼虫も、かなり多く含まれているようだ。幼虫は現在2令か3令で、越冬態の4令幼虫に育つまでにはまだ時間があると思われ、かなりゆっくりと成長しているようだ。今日は、ちょうど3令に脱皮しそうな2令幼虫を見つけ、果たしてその脱皮を確認した。かわいい2令幼虫のお面を残し、さらに大きくなった触覚が凛々しい。 |
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2016年10月19日、脱皮直前の2令幼虫 |
2016年10月19日、脱皮直後の3令幼虫 |
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2016年10月27日、越冬間近にして4令に脱皮(直後)。夏型に比べ、触覚が太短くなっている・・・越冬型だな。 |
2016年11月22日、葉は黄化し、いよいよ落葉間近。幼虫も越冬に向けて、褐色化してきたようだ。 |
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2016年11月22日、 11月も末になると、アカボシゴマダラの幼虫は越冬の準備が着々と進んでいるように見える。既にエノキの葉は黄化を始め、それに伴って幼虫に体色も褐色を帯び始めた(写真上右、写真左)。また、エノキの枝によっては落葉が進んでいるところが見られ、そこでも幼虫の姿が確認されている(写真左)。周りの葉は既に落葉しているが、幼虫が留まっている葉が落ちないのは、幼虫の吐く糸により葉柄が枝に固定されているからのようだ。幼虫の体色は、他の個体とほとんど変らないので、皆、ほぼ同時に越冬準備が進行しているようだ。 |
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2016年11月25日、記録的初雪のなかの幼虫(写真下) 24日は50年以上ぶりの記録的な初雪で、庭には一時的に8cmほどに雪が積もった。翌25日は朝から快晴となったが、夜明けと共に庭を見回り、ブッドレアなどの倒れた庭木を処理した。そこでふと思い出したのは、昨日まで残り少なくなったエノキの葉の上で、細々と越冬の準備を進めていたアカボシゴマダラの幼虫のこと。早速様子を見ると、まばゆく輝く朝日のもとで、雪か霜に覆われた幼虫が観察された。これほど雪に覆われているということは、体温は気温ほどに低くなっていると考えられ、幼虫は仮死状態であると思われる。他の幼虫も観察すると、枝を下る途中で凍えたものや、既に褐色に変化した葉に留まって、体色を同じような色に変化させているものなど、それぞれの個体について異なった状況が伺えた。しかし原則的に、幼虫は特定の葉に留まり、落葉していく葉の色に合わせて体色を褐色に変化させ、越冬への準備を進めていくようだ。葉は褐色化していくのにつれて落下しないように、吐き出した糸で固定するようだ。また、中には、変化していく気候に対応できず、命を落とすような幼虫も見うけられた。 |
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朝日の中、雪と霜に凍える幼虫 |
枝を下る途中か? |
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落葉の色にあわせて体色が変って行く |
越冬直前で命を失うものも |
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2016年11月26日、葉上の幼虫についての個体差 快晴の朝、昨日の幼虫を観察しながら気がついたことがある。幼虫によって、寒い冬に向けての対応があまりにも大きく異なっている。そのままでは、予定通り(?)の冬眠ができないのではないかと思われる幼虫がたくさんいるのだ。最も安心して見られるのは、@体色が褐色化して、糸で葉を小枝に固定して木を下る時期を待つもの。大きく分けると、他にA体色の変化は遅れているが、糸で葉を小枝に固定して木を下る時期を待つもの。 ついで、B体色の変化は遅れ、糸で葉を小枝にほとんど固定していない状態で、冬の到来を全く気にしていないもの。Bは風に揺られて大きく振動していたが、暫くして心配していたとおりに落下した・・・少しは糸が巻きつけられていたのだが。 |
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@ A B | ||
そこでさらに感じたことは、以前にも感じたように、アカボシゴマダラは越冬して来年に備えるという行動はしっかりと遺伝子に記録されていないのではないか、あるいは、記録された遺伝子と記録されていない遺伝子があるのではないかということだ。幼虫の中には、しっかりと越冬準備をするもの(写真@)もあれば、まるで行き当たりばったりの行動をしているもの(写真B)もある。ゴマダラチョウやオオムラサキ乃場合はどうなのだろう。側に比較できるほどの多数の幼虫がいないので正確な判断はできないが、大きな疑問を抱いている。また、落下したと思われるBの幼虫はどうなるのだろう。このあと食樹のえのきを求めて徘徊し、エノキの枝か根元付近で越冬するのだろうか? あるいは、落下したままで冬を越し、来春になってからエノキへ移動するのだろうか? 疑問は次々と広がってゆく。昨冬の観察経験も含めて、やはり、来春まで生き残って生長できるものは、かなり限られて少ないのではないか? | ||
上の幼虫を観察していて、もうひとつ解ったことがある。エノキの葉がドンドンと落ちていくと、残った葉(褐色に変化した)はほとんどがアカボシゴマダラに関係したものとなるようだ。そこには、羽化した後の蛹がたくさん見つかった。終令幼虫が姿をくらました後、一生懸命探しても見つからなかった蛹は、さほど離れていないエノキの葉裏や小枝で蛹化していたようだ。葉裏で蛹化する場合も、葉が落ちないように糸で葉を小枝に固定しているため羽化した後も蛹の抜け殻が残っていたものと考えられる。 | ||
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