治療実際例

様々な病症があることは、お解り頂けたでしょうが、ここでは主に腐敗病(バクテリアあるいはカビによる腐るタイプの病症)の治療について述べます。両者の治療と、予防についての方法は基本的に同じです。

(1)軟腐病(バクテリアが原因)

初期治療 褐色斑点がでている状態ならほぼ確実に治療することができ、症状がさほど進んでいない(株の中心部に達していない)場合には助けられることが多いようです。

(例1) 患部からさらに株の中心部に向かい、少なくとも数センチメートルのゆとりをもって患部を切取り、その切り口には薬剤を塗布します。

(例2) ファイサン、あるいはクリーンA原液を下図のように患部に塗布し、薬剤が組織に浸透するように針で患部、及び患部から周辺部に向かって5ミリぐらいの領域を刺します。うまく行くと、治療部は半日で黒変するでしょう。不十分な場合、治療部の一部が再度腐り病の病徴を現すようになります。この場合は同じ治療を繰り返します。黒色変化部は次第に乾燥して行きますが、再発を予防するため、治療後数日間は同部に薬剤を治療同様塗布します。

 例2の写真

葉の中央部にできた腐敗病の感染部に、上記のような処置を施した。処置後、患部は黒変するが、一週間(写真左)もすると褐色に変化する。

その後の患部の変化は見られないので、完治した(成功例)と認められる。

さらに数週間を経過しても、患部の変化は見られない。葉の上部から見ても、写真(上)と同様な治療後が見られる。

数ケ月を経過すると、葉の背遺著に伴い患部は変化していくが、びょきの再発はない。完治していることが確認できる。治療の時、患部及びそのまわりについた薬剤(ファイサン)の影響で、葉の色素が無くなる症状を出している。これらは、はが涸れ落ちるまで、決して変化しない。病気ではないので、株に影響はほとんどなく、放置するしか方法はない。

(例3) 株の中心や新芽が腐敗病などに侵されると、患部の治療と言うより感染した株全体の存亡に係わります。基本的には、患部を取り去り(感染した葉をすべて取り去る or 感染した芽をすべて取り去る)、その傷口に水で練った薬剤(ベンレートやマンネブ・ダイセン)を塗布します。状況によっては、病気の株を切り放し残った株全体を消毒して植替えるとよいでしょう。

共通管理:温度管理など生育条件をベストに保ち、ゆっくりと回復を待ちます。

軟腐病の場合、再発は容易に確認できるため、常時注意して観察し、少なくとも一ケ月から半年の間は警戒体制をとっておく必要があるでしょう。

(2)菌(カビ)類が原因となるもの

葉先枯れ病 (Glomerella Cincta)

立枯れ病 (Fusarium Oxysporum)

根腐病 (Rhizokutonia Solani)

黒色斑点病(リーフ・スポット)(Phyllostictina pyryformis)

ブラック・ロット(Pythium ultimum and Phytophthora cactorum)

灰色カビ病 (ボトリチス病、Botrytis Cinerea)--- この病気については省略します。

 先に述べたように、治療薬と予防薬は使用濃度の違いがあるだけで、種類は同じです。よく用いられる薬剤の種類と、使用濃度をまとめておくことにします。既に述べた病徴の所で特に指定されていない場合は、下記の薬剤のどれを用いてもよいでしょう。但し、希釈倍数にはくれぐれも注意を必要とします。

治療の実際は前述、(1)バクテリアが原因となる場合に順じます。

(例1) 葉先枯れ病やフラスコから出した苗の葉先が腐るような病気が発生した場合。

 全体的に進行の遅い病症が多いが、発見したら迅速に処置することをお勧めします。処置が早ければ早いほど株に対するダメージも少なくなく、治療も容易に済みます。下図のように患部を取り除き、その切り口には薬剤を塗布します。

ここで用いる薬剤はベンレートやマンネブ・ダイセンなどが適切で、ペースト状に見ずに溶いた濃厚なものを用います。

小型容器の中にマンネブ・ダイセンやベンレートの粉末をとり、わずかな水で薬剤をペースト状に溶く。絵の具筆などで、この薬剤を患部に塗るとよい。

フラスコから出した苗は感染しやすく、特に葉先から腐敗する事が多い。フラスコの中で、既に褐色になっていることがあるが、フラスコの中は無菌であることから、これは病気ではない。しかし、一旦外の環境に出すと、その部分から病原体が侵入すると思われる。フラスコから出したときに、葉の先端が茶色になっている時には、この治療が適切。

葉の先端から色が変わっている部分を切り取り、その切り口に上記の薬剤を塗布するとよい。うまくいくと、傷口は変化しないが、しくじると、切り口からさらに内部に褐色部が進行する。その場合は、上記操作を繰り返すとよい。

葉先枯れ病の治療にも同様の方法を取るとよい。患部から株の中心部に向かってさらに数センチの所を切り取り、傷口に薬剤を塗布する。治療が成功すると、切断部から病症の進行な無くなる。

切断する部分が、患部に近すぎたりして治療に失敗すると、写真のように、患部は切断部からさらに進行する。このような場合、切断する場所を十分とって(健康なところを3cmくらい)、もう一度操作を繰り返す。

(例2) 株の中心や新芽が腐敗病などに侵されると、患部の治療と言うより感染した株全体の存亡に係わります。軟腐病の時と同じように、基本的には患部を取り去り(感染した葉をすべて取り去る or 感染した芽をすべて取り去る)、その傷口に水で練った薬剤(ベンレートやマンネブ・ダイセン)を塗布します。状況によっては、病気の株を切り放し残った株全体を消毒して植替えるとよいでしょう。

腐敗病が見られた葉を完全に取り除き、葉をもぎ取った傷口に、上記の薬剤ペーストを塗り付ける。このとき、特定の葉ばかりでなく、近隣、特にその葉が接していた葉にわずかでも徴候が見られたら、その葉も除去するようにする。感染している葉を、如何に完璧に除去できるかが、この治療の重要なポイントとなる。

一見、わずか1枚の葉しか感染していないように見えても、その葉を除去すると、意外に深く進行していることが多い。写真は、株の中心部だけを残して感染していた葉を取り除き、薬剤を塗布した。約、1週間を経過したが病症の進行は見られないことから、治療は成功したと思われる。

腐敗病の葉を取り除き、ベンレートのペーストを塗布した。約1ケ月を経過し、薬剤が洗い流されてきたが、病気の再発は見られない。

ほとんど1芽を除去し、そこにベンレートを塗布したもの、数ケ月後には、新芽が現れて来た。

このようなカビ由来の腐敗病では、水を切り、乾燥状態を保つと、病気の進行をおさえられることがある。水やりには工夫が必要だが、半年〜1年を経過すると、やはり新芽の伸長が見られるようになる。しかし、この近辺には、腐敗を起こす病原体の胞子が・・・。このような株では、この後の扱い方が難しい。

共通管理: 温度管理など生育条件をベストに保ち、ゆっくりと回復を待ちます。感染した株ばかりでなく、周囲の株にも薬剤を噴霧して病原体の感染を防ぐように心がけてください。

その他:親株の中心部が犯され諦めなければならない時でも、まだ感染していない子株が残っているようなら、即刻、病気の株を切り放し残った株を消毒して植替えるとよいでしょう。

(3)殺虫剤

 先にも述べましたように、万病のもとは虫類の発生が原因に上げられると思います。熱心に、バクテリアやカビに対する薬剤を噴霧することも大切ですが、それ以上に、殺虫剤を噴霧することが大切です。

わたしは、左の写真ような噴霧器に、規定に希釈した殺虫剤と殺菌剤を常に準備しています。そして、少しでも、虫類の発生が見られたらこの薬剤を噴霧し、そして、最も近い休日には温室全体を消毒します。

 卵及び成虫期は薬剤に対する耐性力が強いとされているので、殺虫剤は害虫が幼成の時期に使用するのが最も効果的です。実際には成虫・幼成・卵が混棲しているので1度の薬剤噴霧では十分な効果が期待できません。そこで、少なくとも1〜2週間おきに数回連続して使用することが必要です。

 以下に、市販されている代表的な殺虫剤名とそれぞれの効果を挙げます。

その他、様々な種類の殺虫剤が市販されているが、どれを用いても大差はないと思います。但し、使用上の注意をよく読み、その対照及び使用法に注意してください。特に、薬剤を混用する場合には薬剤の種類により適・不適があります。

カイガラムシ スミチオン・アンチオ・マラソン・カルホス・オルトラン
コナカイガラムシ スミチオン・アンチオ・マラソン・カルホス
ハダニ

スミチオン・アンチオ・ケルセン・アカール・オルトラン

モレスタン・ペンタック

スリップス マラソン・オルセン
アブラムシ アンチオ・オルトラン・スミチオン
ムカデ・ヤスデ ゼクトラン
ナメクジ・カタツムリ メタアルデヒド剤(ナメキール等)

腐敗病で死滅した葉を開いてみると、やはりコナカイガラムシの発生が認められた。葉の腐敗を発見した直後でも、その葉を精査すると、病原菌が侵入したと思われる個所を見出されることが多い。これもまた、虫類の食痕と考えられる。

ダニの発生が顕著な場合、伸長してくる新芽は変形したりして傷害を受けたものが多い。しかし、早期に殺虫剤を噴霧し、ダニの発生を抑えることができると、写真(左)のように、新たに伸長する葉は正常となる。ホッとする瞬間といえよう。

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