(3)栽培の実際

1)太陽光

 パフィオペディルムは予想以上に太陽光を好む。太陽光線を充分に浴びた株はがっしりと育ち、力強い花を咲かせるだろう。しかし、光を十分に当てることができるのは、健全な株に限られる。根が腐っていたり、生育が悪い不健全な株に強い光を当てると、ひとたなりもなく干上がってしまうだろう。自信のない時には、光は控えめにする方がよい。適切な光の強さは、品種によっても異なる。原則的に、原種の場合は各品種の生育している環境を参考にするとよい。交配品種の場合は、交配に用いられた原種に依存すると考える。表には、パフィオペディルムの原種の栽培における、私の経験的な遮光の強さを示している。この数値を参考に、自分なりの調節を加えることを勧める。なぜなら、基本的な栽培方法は同じであっても、栽培場所の環境が異なるばかりでなく、栽培者の性格により、その実際は大きく変わっていることが予想されるからである。

 様々な遮光材が市販されているが、市松模様にの遮光材は比較的風を通すので推薦できる。また、遮光材は、温室から30センチは離して張ることが望ましく、2重に張る場合には、その間を10センチ以上離すようにする。アルバムの個体は基本的な遮光よりさらに10%程強くするとよい。

亜属別による遮光の強さ(経験的に)

亜    属

パービセパルム

50〜60%

30〜50%
ブラキペタルム

50〜60%

30〜50%
ポリアンサ

40〜50%

20〜50%
   アダクタム

60〜60%

40〜50%
コクロペタルム

50〜70%

40〜50%
パフィオペディルム

50〜60%

40〜50%
シグマトペタルム

50〜70%

40〜50%

2)栽培温度と風通し

栽培の温度は、もちろん品種により異なる。インドネシア原産の品種は原則的に高温多湿を好み、中国産の原種は冬の温度を低くすることにより開花調節が行われると言われている。従って、栽培温度(特に冬の最低温度)は原産地の気温を参照にすることになる。品種によっては適応力が高く、少々の気温の違いでも平気で生育するものがある。しかし、健全に育てるためには、やはり原産地の気温にできるだけ合わせるように心がけることが大切である。各品種についての最低温度は表を参照にしていただきたい。

品  種  例

最 低 温 度
ロスチャイルディアナム、フィリピネンセ、サンデリアナム、グランデュリフェラム等

20度
ストネイ、アダクタム、アクモドンタム、トルティペタラム、マスターシアナム、コクロペタラムの仲間等

18度
整形交配品種を含むその他のほとんどの品種

15度
フェイリアナム、ベナスタム、ワーディー、ヒルスティシマム等

10〜12度
ミクランサム、アルメニアカム、マリポエンセ等

10度以下(7度以上が好ましい)

 実は、栽培温度についての問題は、冬よりも夏の暑さの方が大きい。パフィオペディルムは熱帯・亜熱帯に分布しているが、比較的標高の高いところに生育している品種が多く、夜温は比較的低い。従って、日本の夏、特に夏の夜温は株には極めて厳しい環境を強いていることになる。熱帯夜が続くと、株の消耗は激しく、我々以上に苦しんでいるに違いない。従って、夏の夜温をできるだけ低くする必用がある。クーラーを働かせるのもよいが、普通の趣味家には贅沢すぎる話しである。そこで、まず、風通しをよくすることである。場所が許すなら、株を屋外に出して栽培する方がよい。夏の間も温室内で栽培するなら、できるだけ四方のガラスやビニールを取り外すのがよい。特に、夜にふく風(山風等)が温室内を抜けるように、温室の北側は解放にすることを勧める。室内の温度をできるだけ下げるように、昼間だけでなく夕方にも、温室の床や周り、さらには、屋根などにも水をまくとよい。この時、扇風機などを用いて人工的に風を送ることも効果的である。

 扇風機によるかぜは、温室内では基本的な装備の一つである。冬の温室では、締め切っているために、空気は滞って、場所による寒暖の差は大きくなる。適所に扇風機を働かせることにより、ベンチ下や、温室の隅などに新鮮な空気を供給することができる。これは、株を健康に保つことだけでなく、病気や害虫の発生などの障害を防止するのにも大きく役立つに違いない。

3)水やりにつづく(ここをクリック)

 

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