1.はじめに

必ず読んで下さい

 多くの洋ラン入門書や一部のラン業者は「洋ランの中でも、パフィオペディルムは低温でも家庭でも栽培できる、初心者向きのランの一種です」と強調していることがよくあります。もちろんパフィオペディルムの中には確かに低温で栽培するのが適切な品種もあり、必ずしも総てが間違っているわけではありませんが、余りにも安易な説明は避けて頂きたいものです。どんなにベテランと言われるパフィオペディルムの愛培家でも、多くの方は「パフィオペディルムの栽培は非常に難しい」と言われるでしょう。では、いったいどこが難しいのでしょうか。株を鉢に植え、適当に水をかけておけば、何とかその株を生かせておくことは誰にでもできることです。しかし株を伸び伸びと生育させ、力いっぱいの美しい花を付けさせることは至難の技です。そして、ここで最大の問題点は、株を健康な状態で順調に育てることなのです。順調な生育をしていない株に、さかしらぶったにわか仕立てのテクニックをいくら用いても、思うように花を咲かせてくれないし、突然に生気を取り戻させるような魔法は期待できません。全ては時間をかけた落ち着いた世話・・・ちょうど、皆さんが小供を育てるように、焦らず気長にその成長を見守ってやる必要があるのです。

 ここではパフィオペディルムの病障害について述べます。この問題にしても、全く同様のことが言えます。多くの栽培家は、パフィオペディルムが病気にかかっても放置しておいて、重病になってしまってからドタバタと慌てるようです。皆さんが病気にかかり医者に駆け込むときのことを想像して下さい。自分や身内の病気には必要以上に神経質になるものでしょう。逆に、「どうしてこんなになるまで放置しておいたのですか。」「もう手遅れですね。」なんて、言われることもありますが・・・。思いだして下さい、茶色に枯れたパフィオペディルムの後ろに、ラベルがまるで墓標のように立っている姿を・・。

あなたは、このような事態になる前に、その株が病気になっていることに気付いていませんでしたか。

僅かな兆候に気付いていながら、忙しいから・・・といって、処置が一日、一日・・と遅れませんでしたか。

とうとう手遅れの事態になってから、あわてて処置をしませんでしたか。

いくら処置をしても、回復する兆候を見せないからと思って、次々と違った薬を用いたりしませんでしたか。

 果して、パフィオペディルムは枯れてしまい・・・、あなたに残された感想は「あの薬は効かない」、「あの病気は恐いね。あっと言う間に、やられてしまったよ」ではありませんか。

 多くの場合、パフィオペディルムが枯れたのは薬が効かなかった訳でも、難しい病気にかかったからでもありません。他ならぬ、あなたの過失なのです。私が言いたいのは「パフィオペディルムもあなたの家族の家族の一員のようにして面倒をみてあげましょう」と言うことなのです。生まれたばかりの赤ちゃんのように、自分の異常を訴えることができないのです。毎日パフィオペディルムの状態を観察し、その僅かな異常をも見逃さない愛情をもって頂きたいのです。パフィオペディルムはいつも語りかけています。「喉が乾いたよー!」、「おむつが汚れて気持ち悪いよー!」、「お腹がすいたよー!」、「暑いよー!」、「寒いよー!」、「・・・・!」。 このような時こそ手を差し伸べるべきで、何も言えないほど弱りきってしまってからでは取り返しがつきません。また、もう一つ大きな過ちを犯すことがよくあります。適切と思われる処置をしたにもかかわらず、すぐに元気にならないので不安になることです。そしてさらに、あれこれと別の処置を取ろうとし、かえって状態を悪くしてしまうのです。カゼをひいたときに、いろんな薬を手当り次第に試しているようなもので、カゼはとっくに直ったにもかかわらず薬で胃を傷めて苦しい日が続くようなものです。パフィオペディルムは洋ランのなかでも最も生育が緩慢な品種です。従って多くの場合、適切な処置をとっても、その処置が間違っていても、状態は急激にはさほど変化しないように見えます。もちろん、どんどん目に見えて症状が進行して行くような病気は、即刻に止めないと困りますが・・・。何れにせよ、病気に感染した株や病気には感染していなくても元気を失った株を、もとどおりに元気よくするには骨がおれるとともに時間がかかるのです。従って、このような問題を起こさないよう、すなわち、病気に感染したり、害虫が蔓延したりしないように、パフィオペディルムの健康管理に努めることこそ最大の防御法なのです。この点をしっかりと頭の中にたたき込んでおいてください。言い替えれば、病気を起こしたり、害虫に侵されたりするのはパフィオペディルムが弱いのではなくて、あなたの「過失」だと言っても過言ではないと思います。

 しかし、誰にだって「過失」はあります。既に述べたような努力にもかかわらず、ほんの僅かな心の隙にパフィオペディルムの事態を悪くしてしまった方々のために、以下、パフィオペディルムがかかる主な病気とその治療法に付いてお話することにしましょう。事実、病気を知ることは、その感染防御に大きく役立つことになるからです。この記事をよく読んで、今日から皆さんはパフィオペディルムのホームドクターになって下さい。

 

ここで、もう一度病気に対処する前に、心に命じて於かなければならないことをまとめておきます。

注意

その1:日頃、パフィオペディルムの状態をよく観察し、異常    をできるだけ早く察知する。

その2:この時、状況がさほど進んでいなくても、即刻適切な    処置を取る。

その3:自分のとった処置を信じ、気長に回復を待つ。

その4:病害虫に侵されないように、予防に努める。

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