中国の Cypripedium (NO.2)

中国滞在中の蘭友、ホルガー・パーナー博士 ( Dr. Holger Perner )からの手紙

Sichuan北部、Minshanにおける
スリッパーオーキッド・Cypripedium 属について
Sichuanの北部にあるMinshanは連なった小さな山に囲まれ町で、Hengduan山脈の北側から連なって広がるGansuがすぐ南にあります。雲南の北西部からここSichuan の北部までに至る一帯には、91属の約370種ものランが自生しています。ここはまた、Cypripedium属が分布する中心的な地域でもあります。気候が温暖なので、ここには22種のCypripedium属の仲間が自生し、近くに自生する種を入れると26種が分布していることが知られています。ここ Minshan で、私は既に11種のCypripediumを見つけました。それは、Cypripedium bardolphianum, flavum, franchetii, guttatum, henryi, palangshanense, plectrochilum, shanxiense, sichuanense, smithiiと、そして tibeticumで、さらに、少なくともあと4種はここで見つけることができると期待しています。なぜなら、 Cypripedium debile, fargesii, farreri and fasciolatumの4種もまた、この近くに分布していることが知られているからです。

 Minshanで cypripediumが最もたくさん自生しているところはHuanglong とJiuzhaigouです。自然の宝庫とも言えるHuanglong とJiuzhaigouは、ユネスコ(UNESCO)の世界自然環境遺産保護区と中国の国立保護区に指定されています。では、Huanglongの国立保護区について、もう少し詳しく紹介する事にしましょう。私はここで、2001年の9月から生態学者として、また、保護区の管理アドバイザーとして働いているのです。この保護区は、広さはおよそ700 km2 、標高5588 m (Minshanの最高峰)から 1700 mまで、広範囲に広がっています。ここで最も風光明媚なところはHuanglong バレーでしょう。この谷は標高が3100 から3600 mで、古い文献では、黄色の龍の谷を意味するといいます。ここには写真のような3300にもおよぶ石灰質の平たい池が重なるように並び、その水の色は青、青緑、緑と変わるのです。また、ここには滝や鍾乳洞、1.3 km にも及ぶ石灰岩の岸壁があり、世界でも最も美しい自然の光景の一つと思われます。

自生しているCypripedium
また、ここはすばらしい自然公園でもあります。石灰岩が開放的な、いかにも公園らしい光景を構成して、その周りは鬱蒼と茂った原生林が 囲んでいます。6月には Cypripedium flavum、tibeticum、bardolphianumなどが、なんと10 000 (!) 以上もの花を咲かせ、色鮮やかな池の間にまるで小さな花の島が浮かんでいるかのように咲き誇るのです。これらの花は、3.5 kmにも及ぶ谷に張り巡らされた木製の小道から十分に堪能できるます(写真上)。ここでは23 種以上ものランが見られ、その中にはCyp. smithiiの群落や、Calypso bulbosaの群落、また、黄金色の美しい花を咲かせるPhaius delavayi (正式な種名は Calanthe delavayi)の数千にも及ぶ群落、その他、 Poneorchis chusua や Galearis dianthaなど、言葉では簡単に挙げることができなほど様々な種のランがそれぞれの美しさを競って花を咲かせます。

Huanglong valley からは Danyun 峡谷(写真 横)が標高2500 mから1800 mに至るまで、18 km 以上に渡って広がって伸びています。ここにはCyp. plectrochilumが最も多く、さらに、Cypripedium henryii やsichuanense が見られ、また、6種のカランセ(Calanthe)が自生しています。この6種とは、Cal. alpina, tricarinata, brevicornu, davidii, hancockiiと、さらに、未だ未登録の種と思われるものを含みます。また、普通種としてEpipactis mairei、 Pleione bulbocodioides、 Cymbidium faberi.なども、何処ででも観察できます。もちろんここ Danyun 峡谷や近くの沢では、他のさまざまなランも見ることができます。さらに、ここはジャイアント・パンダの生息地で、およそ24尾のパンダが確認されており、さらにターキン(カモシカのようなウシ)やレッサー・パンダ、キンシコウなど、とても珍しい動物が生息している場所でもあるのです。毎年数千人の観光客がこの地を訪れますが、それでもなおHuanglong 峡谷はほとんど一般の人は足を踏み入れない静かで穏やかな地なのです。

Minshanで見られるCypripediums
では、ここMinshanで、私が実際に見たCypripediumについて、少し紹介させてください。
Cypripedium tibeticum
Cypripedium tibeticumは標高2400〜3800 mのところに自生しています。 この種はライムストーンにより構成されている山岳の草原や灌木地帯で普通に見られます。ここで見られる花は白色地に多少の差はありますが、濃いワインレッドが乗ったような色彩をしています。(写真 下)

Photo : Cypripedium tibeticum

左の写真は、Huanglong峡谷で見られたCyp. tibeticum の花ですが、一般に、熱帯地域で広く見られるスリッパーオーキッドの中でも、際だってすばらしい花を咲かせることが知られています。ペタルの幅は 3.5 cm もあり、花のNS10 cm.にもなります。この Cyp. tibeticumに少し似た花にCyp. franchetii がありますが、Cyp. tibeticumのほうが花茎が長く、背が高い印象を受けます。 花はManchuriaで見られるCyp. macranthosによく似ています。主な違いは花茎に、特に子房に、目立った微毛が認められることです。一方、Cyp. tibeticum でも、子房の周りに微毛が観察できることがありますが、決して濃いほどではありません。

Photo : Cypripedium tibeticum

中国の Cypripedium (NO.3)へつづく

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