中国の Cypripedium (NO.3)

中国滞在中の蘭友、ホルガー・パーナー博士 ( Dr. Holger Perner )からの手紙

Sichuan北部、Minshanにおける
スリッパーオーキッド・Cypripedium 属について(2)
Cypripedium smithii
Cypripedium smithii
は、Cyp. tibeticum の近似種として知られていますが、花は比較的小さく、ドーサルの地色は黄色地に紅色が強く乗るので、結果として濃い紫紅色(プラムの色)を呈しています。ライムストーンの上に開けた灌木の草原を好み、標高2400 〜 3300 mに分布しています。

Cypripedium smithii
Cypripedium flavum
Cypripedium flavum
はCyp. tibeticumのように、何処でも見られる種ではありません。Huanglong峡谷や他のよく似た山岳地帯の、標高 2400 〜 3400 mの1000mの間で、まれに見つけることができます。 花は普通、明るい黄色をしており、黒っぽいスタミノードとポーチの裏側の濃褐色の斑が特徴的です。時には写真(左下)に見られるように、このポーチの斑が外側に現れているものも見られます。右下の写真はライムストンで構成された地形の小さな流れに沿った険しい粘土の傾斜に生えていた、力強く成長した例外的とも言える株です。 花が2輪作のは決して珍しいことではありません。北アメリカに自生するCyp. reginaeに類似しているとも言えるでしょう。Huanglongの北100Kmくらいに自生するこの群では、花のセパルとペタルは少し桃色を帯びています。

Cypripedium flavum

Not far from the interesting 上に紹介したCyp. flavum が自生している場所からそれほど遠くない所に、Cyp. shanxiense の一群がある。この種は、ユーラシア大陸に広く分布するCyp. calceolusや北アメリカに分布するCyp. parviflorumの近縁種で、比較的背が高いスリムな花茎にわずかに黄みを帯びた銅褐色の細身の花を2輪咲かせる。 しかし、この種の際だった特徴は自家受粉を主にすることにある。

この種は、アベリヤノフ教授(Prof. Leonid Averyanov )により、ロシアの太平洋岸に近いところで新しく発見された。花粉はワックスに強く覆われ、熟すと蜂蜜のように粘性を持って柱頭に着く。ここSichuanは、標高2500 から 3000 mあり、ライムストーンの上に腐葉土が覆い被さっており、日陰か半日陰のところにこのようなCyp、が自生している。.

Photo: Cyp. shanxiense

これにとても近縁の種にCypripedium henryiがある。Cypripedium henryiは、普通2~3輪、時には4~5輪の黄緑色の花を咲かせる。咲き始めには強い悪臭を放つが、この臭いは交配をしてくれる虫を引き寄せるためらしいが、その確実な証拠は認められない。というのも、この種も他家受粉ではなく、自家受粉により交配を成立させるので、受精が成り立つ期間は極めて短い。 Cyp. henryi はDanyun 峡谷では、あちこちに普通に見られ、決して珍しくない。標高1800 から2300 mの登山道の脇にあり、木陰が少し開けているようなところで、ライムストーンの複雑に変形した岩の上を覆ったわずかな土に根を張っている。

Photo:Cypripedium henryi
Cypripedium plectrochilum Cypripedium plectrochilum は、北アメリカに分布する矮星種のCyp. arietinum に極めて近似する種で、Danyun 峡谷では Cyp. henryi と混生したり、ととてもよく似た場所に自生している。しかし、Cyp. plectrochilum の方がずっと多く見られ、私は標高2250 mあたりの灌木に挟まれた日陰に、1000以上もの花を咲かせているコロニーを見つけた。

Photo:Cypripedium plectrochilum

Cypripedium guttatum
小型だが、方フルでとても美しい花を咲かせるCypripedium guttatumは、Minshanではそう頻繁には見られない。標高が2900m から 3300 mの灌木地帯で、少し明るく開けたようなところで、ときおり小さな群で見られたり、単独で可愛い花を着けている姿を見かけることがある。ときには、ライムストーンのうえに粘土がたぶんに混ざったような土壌に、生えていることもある。そのとても華奢な匍匐茎はもろい表層土の表面近くを這っているようだ。

Photo:Cypripedium guttatum

Cypripedium bardolphianum

Cypripedium bardolphianumはたった一枚の葉だけを持つとても変わった、小さなスリッパーオーキッドといえる。実は、他にも葉はあるのですが、この葉は包葉にあたるのです。Cyp. guttatumとよく似て、匍匐茎を伸ばして増えていきますが、風通しの良い開けた影地をとても好みます。標高 が3000から3400 mで、ライムストーンのうえをわずかに覆った腐葉土に自生しているのが見受けられる。

Photo:Cypripedium bardolphianum

Cypripedium sichuanense Cypripedium sichuanenseはCyp. bardolphianum の近似種だが、花はそれよりずっと大きく、斑状の模様が入った二枚の葉を持っている。この二枚の葉は、実は一枚が本当の葉で、も一枚は包葉に相当するのです。この種は、つい最近、私がここ Sichuanの北部で新発見し、記載したものです。標高が2000 から 2500 mで、ライムストーンの上に覆われた腐葉土に自生し、比較的遮光された場所を好みますが、ときには、太陽光がまともに当たるような場所でも見ることがある。明るいところに生育している株は比較的小柄ですが、花茎や匍匐茎など は短く頑丈にみえる。

Photo:Cypripedium sichuanense

Cypripedium palangshanense

A curious little slipper orchid related to Cyp. debileの近似種で、変わった珍しいものに 小型の Cypripedium palangshanenseがある。草丈が数cmというほんとうに小さな種で、自然のなかでこの種を見いだすのは難しく、残っている記録でも数えるほどしかない。私はIJiuzhaigou 特別自然保護区で、この種が自生している場所を、わずか一カ所だけ確認している。ここは標高2700 mの開けた灌木地帯で、ライムストーンの上に腐葉土が覆っている。

Photo:Cypripedium palangshanense
Minshanでは、ほとんどのシプリペディウムは6月の中旬あたりに花を着けるのが普通ですが、 Cyp. plectrochilum や Cyp. henryiのように、標高が比較的低い所に自生している種は5月に花を咲かせます。これら自然に自生している株は、いつも営業目的や趣味家による違法な盗採に晒されているのです。皆さんも、自然から採集したと思われるシプリペディウムの株を決して購入しないようにしてください。このような盗採は予想以上に大規模で行われ、それぞれの種を減少させるばかりでなく、全体のバランスまで壊してしまう状態なのです。もちろん、このような種を自然から採集するのはもっての外です。中国産のシプリペディウムは勿論のこと、ランの原種を研究室で人工的にもっともっと増やすことができるようになると、皆さんお手元に届けることができるようになるでしょう。 Huanglong 特別自然保護区では、自生しているシプリペディウムを有るがままの姿で保存・保護する目的で指定されており、我々は、ここに自生するシプリペディウムを種子から大量に生産しようと、今年2002年に 植物園を設立しました。実は、ここではランばかりではなく、他の重要な植物の増殖も行います。将来、できれば来年、ここで生産されたこれらの植物はシプリペディウムの違法な採集を防ぐ目的で、一般にも配布したいと考えております。また、このような状態になったときには改めて報告しますので、直接の問い合わせはご遠慮下さい。

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