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2003年8月、新企画出版局(03-3541-1141)が出版したNew Orchids NO. 121 にすばらしい記事が掲載されましたので、ここに紹介します。このタイトルは 特別報告「難発芽性パフィオの無菌播種に成功!」です。報告したのは山形県立村山農業高等学校生物工学科で、2002年12月、自然と野生蘭に「難発芽性カキランのPLB形成に成功!」を報告した記憶がまだ新しいところでした。蘭の培養について、数々の実績を着実に重ねていかれる山形県立村山農業高等学校生物工学科の指導教官及び生徒の皆様には、本当に頭が下がる思いです。ここに改めて心からの賛辞を送りたいと思います。「難発芽性カキランのPLB形成に成功!」については、その抜粋をNEWS NO.2 で紹介しています。尚、この原稿の掲載に当たり新企画出版局の許可を得てますが、承諾無しの転載はお断りいたします。さらに詳細な内容を求められる場合には、バックナンバーNew Orchids NO. 121をお求め下さい。 |
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山形県立村山農業高等学校 | 斎藤信俊(教諭)、三沢正美(実習教諭) 生物工学科生物工学科3年生 高橋貴俊他10名 |
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<要約> 実生による発芽が極めて困難とされているパフィオペディルム、アルメニアカムとミクランサムの無菌播種に成功した。ホルモンを含んだ培地が、これらの種子発芽と生育の効率を高めたものと思われる。 |
<材料> アルメニアカムとミクランサムの未完熟種子:健全なアルメニアカムとミクランサムの個体を選別しシブリングクロスを行った後、6ヶ月あるいは8ヶ月を経過した未完熟種子を用いた。 |
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培地: 播種用培地 継代培地 |
播種について | |
<方法> (1) 殺菌 |
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(2)播種培地におけるプロトコームの形成 播種後、およそ45〜50日でプロトコームの形成が始まった。 |
(3)プロトコームの継代培養 形成されたプロトコームは、適時に継代培地に植え替えられた。継代培地は播種用培地と原則的に同じ成分とした。液体培地で生育したプロトコームは、試験管の口元を火炎滅菌した後、そのまま継代培地の上に投入した。このとき過剰な液体培地はピペットで吸い取って捨てた。生育の効果を確かめるために、LS培地は1/2濃度と1/3濃度を作製し、それぞれの培地での苗の生育を比較検討した。継代培養に切り替えたとき、照度3000〜4500ルクスの明培養とした。 |
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暗培養をはじめておよそ5ケ月後、プロトコームが直径5mmくらいに肥大したところで、新たな継代培地に移植された。このとき、培地組成と同様の液体培地を少量加えた。また、室温を22℃にして照度3000〜4500ルクスの明培養に移した。光によって展葉が促され、その後、根が形成されることが期待される。 |
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苗が2〜4cmの苗に生育したところで、フラスコから苗を出した。順調に生育すると、播種から約1年8ヶ月〜2年でフラスコ出しに至る。フラスコから出された苗は6cmポットに移植順化された。コンポストにはシュレッダーにかけた段ボール片を5〜10mmの厚さに敷き、その上に赤玉土、鹿沼土、水ゴケ、珪酸白土の混合用土を用いた。根の本数が少ないので、移植には細心の注意が必要である。 |
(4)結果と考察 |
培地の組成は園芸的に確立されてきた洋ランの播種や苗の育成培地と比較すると、LS培地の1/3濃度という、かなり薄い培地が良いようである。播種培地について、発芽効率が良かったのは (B)のハイポネックス培地より、(A)のLS培地であった。プロトコームは、交配後6月未満の未熟種子においては平成13年11月18日、播種後およそ60日で確認された。一方、液体振とう培養においては、播種後およそ45〜50日でプロトコームの形成が確認された。プロトコームが確認されてから数ヶ月間培養を続け、播種からおよそ5ヶ月後にプロトコームを継代培養した。播種後6ケ月になると、突然プロとコームが褐変化することがあるので、状況を観察して継代することが必要になる。原則的に、LS播種培地はLS継代培地へ、また、ハイポネックス播種培地は同じ継代培地へ継代した。苗の生育を比較するため、LS培地を1/3濃度の代わりに1/2濃度に変えたところ、極端に大きくなる苗と生育を停止したような苗が観察された。一方、基準にしているLS培地の1/3濃度では、苗はほぼ均一で順調な生育を見せた。継代培地の濃度を高くすると、苗の生育に異常をきたすようだ。 これらの苗はさらに順調に生育し、フラスコ出ししたのち生育を続けて開花に向かっている。 |
田中からのコメント パフィオペディルムの播種で、特に原種においては、全てが同じ方法で、同じように発芽することはない。まず、国内で種子の形成においても、種子が採れやすいものと採れにくいものがある。また、播種しても、発芽しやすいものと発芽しにくいものもある。そのなかでも、ミクランサムとアルメニアカムについては、良好にフラスコ苗が採れたという話を聞いたことがない。ヨーロッパ、USA,アジア(日本と台湾)などで、同様の結果が聞かれる。全くゼロというわけではないのだが、十分な種子の形成が確認されていても、種子から苗が順調に生育することが極めて少ない。世界各国のラン仲間と議論されたことが幾度もあったが、低温処理や暗黒環境での培養などのアイデアは出されたものの効果的ではなかった。しかし、頻繁に行われた議論のなかで培地についてほとんど話題にならなかった。なぜなら、ランの播種培地は糖と基本的な塩が含まれた培地で十分であるという共通の認識があったからだ。この報告で、まず驚いたことは、あまり議論されなかった培地の組成が大きく異なっていたことである。ここでは、植物組織の培養培地を基本としてBA(ベンジルアデニン)やNAA(ナフタリン酢酸)等のホルモンを含んでいる。未成熟の胚を育てるのだから、組織培養が基本となるのは当たり前のような話であるが、目から鱗ともいえるこの内容は、我々が固定された概念に捕らわれていたことを深く反省させるものである。そのような意味では、画期的な方法と行っても過言ではないだろう。この内容は、以前、パフィオペディルムのメリクロンが成功したという情報を得たとき、培地には通常の何倍ものホルモンが含まれていたことに驚いたことを思い出させる。パフィオペディルムの胚の生育条件は、他のランとは大きく異なるようだ。この情報をもとに、多くの方々がミクランサムやアルメニアカムの播種に成功できることが期待され、これらの原種が自由に増殖できるばかりでなく、優良な個体が作出されるようになるだろう。さらにこの成功により、自然からの希少なランの違法な採集を止めることに大きく貢献することを信じてやまない。 |
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