今月(5月)の例会は初夏を思わせる汗ばむほどの花日和のもと、予想以上にたくさんの出品花で展示テーブルの上は大いに賑わった。豪華なランの花は、まばゆく輝く暖かい太陽がよく似合う。本来なら展示された全ての花を紹介しなくてはいけないのだろうが、紙面の都合で一部のパフィオペディルムに限らせていただくことを、ご容赦いただきたい。 |
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(写真1)
Winbell 'Hnang' GM/JOGA
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(写真2) 未登録
(Double Trix x emersonii ) 'Kwata'
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(写真3)
Bella Lucia 'Kuwata'
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(写真4)
S. Gratrix 'Saitho'
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(写真1)いつもながら素晴らしいパイオペディルムの花が肩を並べるなかで、とてつもないほどの輝きを放っているパフィオがあった。ウィンストンチャーチルとベラチュラムとの交配、ウィンベルWinbell 'Hnang' GM/JOGAだ。整形交配種と原種ベラチュラムとの交配は、世界で数え切れないほど繰り返し行われてきたが、成功例はほんの僅かにすぎない。幾度も再交配が繰り返されたウィンベルもその例外ではなく、優良な個体の選別は極めて困難といわれていた。ところが4〜5年前、関西で再交配された苗から濃色良形の優良な個体がいくつも選別され、パフィオファンを熱狂させた。しかし、台湾で交配されたと聞くこの個体はそれを遙かに凌ぐもので、おそらくこれより優良な花は期待できないだろうとも思われるほどの逸品である。惜しむべくはポーチに少し奇形が現れているが、この個体は先日の福岡ドームで開催された蘭展でゴールドメダルを獲得したという。この奇形にも拘わらずゴールドメタルに余る価値が認められたものと思われ、この花のすばらしさと共に審査における勇気ある判断に賞賛を贈りたい。この例会ではこんなに素晴らしい花が手に届くところで見られる。その幸せな時間と空間を体験できたことに感謝したい。
(写真2)先に紹介したウィンベルのような良花にその座を譲りながら、明日の栄光の座を狙っている素晴らしい花を、例会に参加された皆さんは気付かれたであろうか? 未登録(Double Trix x emersonii) 'Kuwata' は極大の優良選別株だ。この花ではペタルの反りなどの欠点が現れているが、小さな株から咲かせた初花であることを考慮すると、とてつもない花に生長することが予想される。その大きさと色彩の澄んだ美しさは、先に紹介したウィンベルに負けずとも劣らない。
(写真3)ベラルシアBella Lucia 'Kuwata' も極大整形の選別個体である。前者と同様、華奢な株から咲いた初花であることから、花の迫力がやや欠けるものの、これほど大きく整形のベラルシアをかつて見たことがない。いずれ広くその名を轟かせることになるであろう。
(写真4)優良選別個体エス・グラトリクスS. Gratrix 'Saitho' の大株作りは、感動すらおぼえる。優良な個体はつい小さくまとまった株に育てられることが多いが、これほど大きく力強く育てられた株を見せて頂くと、なぜかとても嬉しくなるのは私だけであろうか? ブラキペタルムの仲間を大株に育てようとすると、風通しが悪くなったり病害虫の攻撃を受けやすくなり、その難しさは一言では言い表せない。この株からは、そんな緻密な栽培の努力が伺える。 |
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(写真5) 未登録
(Sheerline x micranthum )
'Color Magic' BM/IOK
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(写真6)
bellatulum
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(写真7)
bellatulum 'Saitho'
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(写真8)
bellatulum 'Big Spotts'
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(写真5)未登録( Sheerline x micranthum ) 'Color Magic' BM/IOKは弁が少し捻れているが、その迫力のある大きな花が最大の特徴だ。個体名はカラーマジックとなっているが、フミズデライトFumi's Delight (armaniacum x micranthum) の例から判断すると、この色彩はマジックではない。ミクランサムの交配相手に黄色の花を用いれば、必ず黄色の花を咲かせという構図になる。
(写真6)〜(写真8)原種ベラチュラムbellatulumには、 'Saitho' 'Big Spotts' などの素晴らしい個体が肩を並べた。いずれも斑が明確で濃色の優良な花を咲かせているばかりでなく、 さらに、どの株もみな活力がみなぎっており、その栽培テクニックにも強い関心が寄せられた。 |
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(写真9)
leucochilum 'Saitho' 419
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(写真10)
villosum 'Lloy's' AM/AOS
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(写真11)
exul 'Mu NO.2'
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(写真12)
philippinnse 'Borneo'
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(写真9)リューコキラムleucochilum 'Saitho' も、力強く盛り上がったような生き生きとした株に迫力満点の濃色の花を咲かせて、我々の目を釘付けにした。
(写真10)ビローサムvillosum 'Lloyds' AM/AOSは、20年以上も前の入賞花であるが、今でもその輝きは変わらない。花の大きさ、形、艶のある色彩…いずれをとっても今でもなお優良花だ。交配種は次々と進歩し続け、古い入賞花は新しい選別個体に埋もれていくことが多い。しかし、原種は永遠に原種であり続ける。すなわち、素晴らしい原種は永久にその素晴らしさを放ち続けることになる。
(写真11)エクスルexul 'Mu NO.2'
花の大きさはそこそこであるが、均整のとれた形が素晴らしく、厚い弁質と光沢のある鮮やかに色彩が高く評価される。
(写真12)一見何の特徴も見られないようなフィリピネンセphilippinnse 'Borneo' 。なぜここで取り上げたか、その訳がお解りであろうか。フィリピネンセはルソン・ミンダナオ島を含むフィリピンの島々に広く分布することが知られているが、実はボルネオ島(カリマンタン)の北東端部に分布することが記録されている。しかしその実体は幻と言われるほど知られていない。この株は、その地域で採集された記録を残すためにユボルネオユと名付けられている。花の優良な特性ばかでなく、その分布域にもこだわりを見せる、マニヤならではの逸品といえよう。そのような意味を噛みしめながらこの花を眺めてみると、味わいはより一層深いものになるだろう。 |
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(写真13)
Fanaticum ( micra x malipo )
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(写真14)
Sugar Suite 'Toki'
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(写真15)
Amagiri 'White Wings'
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(写真16)
Berenice 'FN-Beat'
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(写真13)ファナティカムFanaticum( micra x malipo )の花の色彩は、白地にわずかに紫を帯びた桃褐色のスジが明確に現れたものがほとんどだが、このように全体に褐色味帯びた色彩は珍しい。やや小振りながらバランスの良い優良な個体である。
(写真14)シュガースーツSugar Suite 'Toki'
花の大きさはそこそこだが、ドーサルセパルの一部が暴れているのが惜しまれる。ペタルの幅がとても広い優良な整形選別個体といえる。
(写真15)アマギリAmagiri 'White Wings' はウェンシャンエンセwenshanenseとデレナティーdelenatiiとの交配である。この交配から整形優良個体の選別が期待されたが、実際にはほとんど選別できなかった。この株は、そのなかから特に整形の優良個体として選別されたものである。このように大株に育てていただくと、その見栄えはより一層華やかなものになる。
(写真16)ベレニスBerenice の花は、濃色ですっきりした色彩が人目を引く。よく見慣れた交配であるが、その魅力はやはり人を惹きつけるものがある。 |
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(写真17)
Harold Koopowitz 'FN-Beat'
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(写真18)
(Hamana Leader x Laser) 'Nissho'
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(写真19)
Macabre 'Yamamoto'
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(写真17)ハロルド クーポウィッツHarold Koopowitz
これは最近比較的よく見かける淡い黄褐色の花を咲かせる個体。しかし花は大きく、バランスよく平坦に展開するもので、優良個体のお手本のような花と言えよう。
(写真18)未登録(Hamana Leader x Laser ) 'Nissho'
今ではすっかり見慣れたビニカラーのヒゲ花。一時期、一世を風靡したビニカラーのモーデーやビントナーズトレジャーは、今やほとんど熱く語られることはなくなったようだ。しかし、依然とそのファンは多く、アメリカや台湾では交配が続けられている。今では、色彩のみならず、花の大きさやその形は以前と比較にならないほど評価基準が上がっている。パフィオ交配の進歩の究極を大きく丸い花を咲かせる整形交配種とするなら、このカテゴリーも整形交配種に匹敵するもう一つのジャンルを構成する究極の形と言えよう。
(写真19)Macabre 'Yamamoto'
マカブレも前述のビニカラーヒゲ花の代表作の一つとして知られている。しかしその過程で誕生した普通のフレームカラーや濃色のコロラータムの花を咲かせるものも少なくない。さらにこれらのなかから、ビニカラーの選別個体より素晴らしい迫力のある大型優良個体が選別されている。このような優良な個体が容易に出回るようになると、そう遠くないうちにヒゲ花のブームが再び訪れるかも知れない。
春の優しい日差しのなか、甘い香りのする蘭の花に埋もれた部屋は、周りの喧噪から隔離された自分だけの空間を与えてくれる。その快さに身を任せると、ついそのまま、心地よいうたた寝の世界に引き込まれることになるだろう。素晴らしい蘭の花に囲まれて、陶酔する夢のなかで…。 |