春
を過ぎて夏も近くなると、パフィオペディルムの原種、なかでもベラチュラム、ニビウム、ゴデフロィエなどのブラキペタルムの花が咲き始める。また、これらブラキペタルムの特徴を強く受け継ぐ交配も、その独自の雰囲気で自己主張し、いつもの展示とはひと味違った賑やかな初夏の雰囲気が漂う。
この例会では、バラエティーに富んだ様々な種類のパフィオペディルムが展示されたばかりでなく、目を見張るほど素晴らしい個体が多く集まった。さすがAJOSの例会と言えよう。特に秀逸なものには、スクハクリ (Paph. sukhakulii‘FN-Beat’写真1)やスーパービーンズ(Paph. superbiens‘Poco Poco’写真2)さらに、リンレイ・クーポウィッツ(Paph. Lynlei Koopowitz‘FN-Beat’写真3)等があげられる。
スクハクリ(写真1)はペタルの幅が3cmを超えるボリューム感に満ちた逸品で、この度の審査で高得点を獲得AM84Ptsに入賞した。スーパービーンズ(写真2)は、これもまた大輪でバランスのよい、これこそスーパービーンズを代表する銘花といえよう。黄緑色を帯びたドーサルセパルは上品で美しく、アンバランスなまでにふくよかなポーチは、スーパービーンズの醍醐味と言える。この花もまた、この度の審査でAMに入賞した。リンレイ・クーポウィッツは、優良花が期待されつつ繰り返し交配が試みられてきれた。しかし残念ながら、皆無と言われるほど良花が選別されていない現状のなかで、これほどの大きさとバランスのよい選別個体が他にあるだろうか。ペタルを被う淡いピンクの網目状模様がとても美しい、最高級のリンレイ・クーポウィッツと言えよう。ジョイス・ハセガワ(Joyce Hasegawa‘KK’写真4)も、ペタルの幅がとても広い大型の優良個体である。ただ、花期を逸し、やや傷みかげんで、ドーサルセパルが暴れているのが惜しい。コンディションのよいときに審査を受けると、高得点を得るに違いない。
その他、この時期ならではともいえるパフィオペディルムのなかで、際だった花を抜粋して紹介しよう。
アントン( Paph.ang-thong 写真5) は見るからにアントンらしい、大型でバランスのよい整形花を咲かせている。最近、アルバム個体を始めとして、優良な個体の選別を狙ったセルフやシブリングの交配がよく見られるが、ほんもの? いや、いかにもアントンと呼ぶにふさわしい花が見られないのは残念である。花が大きくて整形のため、本当にアントンだろうかと疑いたくなるような優良な個体が多く見られるからだ。そのなかで、このようなアントンの特徴が明確に現れている良花は、大切に栽培され続けて欲しい。
ダイアナム(Paph.dayanum 写真6)はペタルの幅が広くバランスのよい優良花だ。‘ソンジャ’等で知られているかつてのダイアナムとは異なったタイプの、比較的新しい群に含まれると言えよう。これらの仲間は大きく花形がよいが、比較的淡い色彩をもつのが特徴とされる。ビオラッセンス(Paph. violascens 写真7)は、一時よく見かけるようになったが、最近はめっきり見られなくなってきた。やはり栽培が難しく、次々と姿を消しているのであろうか。私の温室でも例外ではなく、もうとっくの昔にそのラベルは墓標となった。
フェア・モード(Paph. Fair Maud album ‘Eureca’ FCC/AOS 写真8)は、20年近くも前に話題を独占した、なつかしささえ覚える銘花であるが、未だにその最高峰の地位を他に譲っていない。当時、フェイリアナム(Paph. Fairieanum)とモーデー( Paph. Maudiae)のアルバム同士の個体を繰り返し交配しても、フェア・モードのアルバム個体は選別できなかったのだ。皆があきらめかけていたとき、突然登場したアルバム個体は、アルバムというばかりでなく、そのすばらしい形に皆は呆然とした。もちろんFCC/AOS。一方、古い銘花フェア・モードと対照的な最新のビニカラーひげ花の優良個体シンイン・ウェブ( Paph. Hsinying Web : Pulsar x Cyberspace, ‘Nissho’ BM/JOGA 写真9)も、目を惹く。最近では、少々の良個体でも驚かなくなってきたビニカラーひげ花だが、落ち着いて眺めるとそのすばらしさに誰もが納得するだろう。
近年人気の高いブラキペタルムの原種にリューコキラム( Paph. leucochilum)があるが、その選別個体は多くのマニヤには羨望の的だ。なかでも‘Mass's’ 写真10のような極濃色個体は特に人気が高く、入手困難な超逸品である。 控えめなのか、花のできばえにまだまだ満足できないのか、個体名がつけられていない Virgo 写真11…大きさも、花形もすばらしいですよ。 エス・グラトリックス (Paph. S. Gratrix ‘Toki’写真12)は、これもまた優良な選別個体。人気の高いこれらの種が、さらにはすばらしい優良な選別個体が間近で見られるのも、AJOSの例会ならではなかろうか。例え自分で栽培していなくても、いろいろな分野のすばらしい花が十分に楽しませ、癒してくれる。初夏の蒸し暑さのなか、とても嬉しい一時でした。感謝。 |
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