(B)カビ(菌)類による病症

1)褐色斑点病 

 上記の本物の軟腐病とは異なり、菌類(カビの仲間)によって引き起こされます。一見、株が腐っているように見えるため軟腐病と思われがちですが、大きな誤りです。また、ケースから判断すると、軟腐病は意外に珍しく、そうやたらに見られるものではありません。多くの場合はこの褐色斑点病でしょう。「軟腐病にかかったんで、抗生物質をつけたんだけど、全く効かなかったヨ」とか、「軟腐病は本当に厄介だよ。マイシン使っても全然駄目だもんネ」なんて話をよく耳にすることがあります。これこそ大間違いの典型でしょう。本当の軟腐病には抗生物質を用いると著効が現れるはずなのです。効かないのは、その病気が細菌によるのではなく、菌(カビ)類によるものだからです。かといって、この病気を侮ってはいけません。この病原体は出芽によって増殖します。胞子は薬剤で容易に死滅させることができませんので非常に押さえにくい病気なのです。すなわち、再発しやすいことになります。パフィオペディルムばかりでなく、ファレノプシスにもよくみられる病気です。

 この病原体は、軟腐病の場合と同じように、株の傷口や害虫の口傷から侵入して感染することがほとんどです。軟腐病に比べると進行はずっと遅いようですが、初期症状は軟腐病にとてもよく似ています。まず、黒色あるいは褐色の斑点があらわれます。時間と共に成長し始め、直径が3〜5ミリになると中央が少し陥没したようになります。この頃になると患部が水分を含んだ湿った状態になり、ゆっくりと主に葉の基部にむかって、時には葉の先端に向かって進行します。即ち、水分を含んだような半透明の侵症が比較的長時間続きます。葉の基部に到達したころになると他の葉の基部ににも病徴が現れ、比較的早い速度で進行をはじめます。放置しておくと株の中心部を含めた株全体が侵され、株を死にいたらしめることになります。特に、株の中心部が侵されると、株の再起は不能と考えて下さい。薬剤を噴霧しなくても水やりを控えると乾燥の状態を保つと、株の中心部には到達しないで症状が停止したようにみえることがあります。すなわち、患部が乾燥して病気が直ったように見えることがあります。このような状態でも、完治した訳ではありませんので安心してはいけません。患部の回りには病原体がゴッソリといるはずです。直ったと思って水やりを再開すると、再発することは間違いありません。この様な状態でも注意深く治療すると株を助けることができます。この病気の特徴を軟腐病の場合と比較しますと、患部は悪臭を出さず、感染部が中心部に至るまでは比較的緩やかに進行するところです。

これらのいわゆる腐り病は、葉の基部から発生することが多い。これは、葉の基部に生息するコナカイガラムシやダニの食痕から病原体が感染すると考えられる。

褐色斑点病、株の中心部が犯されているので株の再起は不能であろう。

いかにも腐敗しているように見えるが軟腐病ではない。 株が完全に犯され他の株に感染し始めた。

<治療>  軟腐病ほど進行が早くないにしても、早期発見と迅速な治療を必要とします。この病気に感染すると、感染した葉を安易にむしり取る人が多いようです。しかし患部が葉の基部に達していなければ、葉をもぎ取ったりするのを極力避けるほうがよいと思います。葉を取り外すことにより組織が外部にむき出しになり、成長点に近い場所に新たな感染を引き起こすことになるからです。処置法の実際はは軟腐病の所を参考にして下さい。

2)葉先枯れ病 (Glomerella Cincta)

 カビの一種、グロメレラ・シンクタによって引き起こされます。病原体は葉の先端にある気孔から侵入するものと思われます。病徴は葉の先端に現れるのが特徴。茶褐色、あるいは黒ずんだ濃茶褐色の患部が先端から次第に基部に向かって進行します。その速度はきわめて遅く、1ケ月で1〜2センチメートルくらいです。しかし、患部はほとんど乾燥することなく、先端から進行中の部位まで殆ど均一の病徴を示しています。時には、進行部位はやや淡い色彩として、線状に現れることがあります。また、数カ月を経過すると、患部の先端は少しづつ乾燥してくることもあります。進行が遅く、あまり大きな害が現れないために放置されることが多いようです。患部がほぼ基部に到達するまで放置すると、基部は同上の症状を示す前に黄色化することが多いようです。葉は枯れても株から離れることはなく、このような状態にいたるまでには、他の葉の先端から同様の症状が進行します。株に大きなダメージを与えないようですが、進行するまで放置すると株を衰弱化させるようです。ほとんどの葉で先端が枯れ始めるようになると治療は出来なくなり、株の再起は不能となります。このような取り返しがつかなくなるまでに、早めの治療を施す必要があります。

グロメレラ・シンクタによる葉先枯れ病 同左。患部が進行しても組織はしっかりとしている

進行は停止しているように見えるが、ゆっくりと進行を続けている。時間が経過すると先端が乾燥してくる場合もある。

<治療> 患部の切除(感染部だけでなく未感染部と思われる部分も数cm切除する。)して、その切口に薬剤を塗布します。近辺には胞子が散在していると考えられるので、予防のためにも長期にわたって薬剤を噴霧します。

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