栽培の実際

春の栽培

4月中旬から梅雨明けまで、戸外の最低気温が12〜15℃の時期です。 パフィオペディルム(以下パフィオと略す)ばかりでなく、ほとんどの洋ランには成育に最適な季節です。冬の休眠期から目覚めた洋ランは、春の陽を待ちかねていたかのように生育を始め、根や葉をグングンと伸ばします。温室で栽培したファレノプシスは真冬に花を咲かせますが、通常ではこの時期に花を咲かせます。花は株の休眠期に咲きますので、いわゆる春咲きの品種といわれる花を付けた株はまだ眠りから醒めていません。この場合、生育は花が終るまで待つことになります。栽培については、最も容易な時期であることは言うまでもありません。直射日光は好みませんので、室内ではレースのカーテンごしにできるだけ日当りと風通しのよい東か南向きのところに置きます。最低気温が15℃以上になると、戸外に出してもかまいません。戸外では、東か南の日当りのよい軒下か木漏れ日が得られるような木陰を選びます。太陽の直射は絶対に避けて下さい。直射が当たる所では、市販の遮光材(ダイオネットなど)で陽光の40〜60%を遮断して下さい。もちろん、風通しのよいところを選ばなければなりません。水はコンポストを乾かさないように毎日あるいは数日に1度の割で与え、さらに、肥料も与えます。肥料は液体でも固形でもかまいません。初心者にはコンポストを傷めにくい市販の洋ラン専用液肥(ハイポネックスやピータース、N:P:K = 20:20:20のもの)を利用することをお勧めします。原液を1000〜2000倍に希釈したものを1週間に1度の割で与えます。規定よりさらに2〜3倍に希釈したものを水やり毎に与えるのもよい方法の1つです。固形肥料(油粕と骨粉の混合)の場合は、3〜4週間に1度の割で新しいものと交換します。いずれにしても決して濃度の濃いものを与えてはいけません。生育が良くなるどころか、反対に根を腐らせて枯らすことになります。肥料の説明書をよく読んでから使用してください。花が咲いている場合には水やりだけにとどめ、花が終った後で肥料をやり始めます。適切な栽培をしますと、新しい青々とした新芽が伸びてきます。パフィオは一度花を咲かせますと、次には同じ株からは二度と花を咲かせることはありません。花が終わった後から生育を始める新芽が大きく生長して、次の花を咲かせます。品種により差がありますが、多くの品種は、上手に栽培すると一年で新芽が親株と同じくらいの大きさに育ち、翌年も花を咲かせます。栽培に失敗すると、新芽は一年で生長しきれず、翌年の花は期待ができなくなります。この場合、親株に生長するまでに数年かかることになります。花は放置しておくと2ヶ月くらい楽しむことができます。必要以上に長く花を咲かせると株を消耗させますので、株を育てたいと思われるなら避けた方がよいでしょう。1ヶ月くらい楽しんだら花茎を切り落とし、株が消耗しないように努めて下さい。2つ以上の花を咲かせる多花系切と呼ばれるグループがあります。1つの花が終わったら次々と新しい花を咲かせるものや、同時にいくつかの花を咲かせる品種があります。前者は、3つ4つの花を楽しんだら、また、後者では一番先端の花が咲いて2週間くらい経ったらった花茎を切り落とし株が消耗しないようにつとめることをお勧めします。切り取った花は花瓶にいれて楽しみましょう。

夏の栽培

  熱帯産の洋ランは暑い夏を好むと思いでしょうが、それは大きな 誤りす。私たちと同じように洋ランも夏はとても暑がり、時には夏ばてを起こします。25℃以下で栽培することを心がけたいところですが、国内では無理な話です。それ以上になる場合には出来るだけ風通しのよい所に置くようにします。室内・戸外ともに春と同じ場所でかまいませんが、太陽の光は春よりさらに強くなりますので遮光材を増やしてやります。室内ではレースのカーテン2〜3枚ごしくらい、戸外では太陽光の60〜80%を遮断して調節します。私達が心地よいと思うようなところが洋ランも心地よいところだと思って頂ければよいと思います。しかし、クーラーの効いた部屋は、温度は適切なものの湿度が極端に低くなっていますので好ましくありません。夏は湿度が高いので、戸外栽培では湿度の心配はありません。室内栽培で湿度が低いと思われる場合には、1日に数度霧吹きでシリンジ(葉水)してやりましょう。コンポストを乾燥させないように水やりに気を配って下さい。一般に、日本の夏は洋ランには暑すぎるので、ほとんどの洋ランは生長を休みます。

秋の栽培

 春と同様に生育が順調な季節です。陽光が弱まるに従い、遮光を40〜60%にします。この時期の生長は春のそれとは違い、迎える休眠期と開花期のために養分を貯蔵する、いわば株の充実を意味します。春から夏の間に十分な生育が得られなかった場合には充実も不十分で、花が咲かないことがあります。コンポストが乾かないように水を与えますが、涼しくなってきたこの時期には毎日与える必要はありません。3〜4日に1度くらいでよいでしょう。肥料は、最低気温が15℃になるぐらいまで与えてもかまいませんが、肥料の種類を変えてやります。花の形成に必要なリン酸を多めに含んだ液肥(ハイポネックスやピータース、N:P:K = 10:30:20)の1000〜2000倍希釈液をあたえます。最低気温が15℃以下になり始めると、戸外に出していた株を室内の暖かい所にいれて下さい。関西・関東地方ですと10月の中旬から下旬にあたります。冬越しの始まりです。もちろん、肥料は与えません。

冬の栽培

 低温性のパフィオはともかく、中温性や高温性のパフィオの冬越しは、温室のない家庭ではなかなか大変なことです。寒がりの子供やお年寄りの世話をするつもりで可愛がってやって下さい。冬は日照時間が少なくなりますので、晴れた日にはできるだけ日光浴をさせてやります。東か南向きの日当りのよい場所に置き、カーテン越しの光(30〜50%遮光)を当てるようにします。パフィオは根が乾燥するのを嫌いますので水やりは欠かせませんが、低温で多湿にしておきますと根腐れをおこします。コンポスト(例えばミズゴケ)を指で触ってみて、しっとりと湿っている程度に保持するようにします。水を与えるときは、晴れた日の朝を選んで下さい。夕方になって温度が下がってきますと、暖かい部屋に移します。最近の住宅は密閉性が強いため寝室は意外に暖かいものです。そこで、おやすみになるとき、寝室に一緒に持って行かれるのもよいと思います。発泡スチロールやダンボール箱で覆って温度を保ってやるのもよいでしょう。冬は温度ばかりでなく湿度も低いものです。特に、暖房している部屋ではかなり湿度が低くなっていますので注意が必要です。暖房器の真前に置いたり、温風が直接当たるような場所は絶対に避けて下さい。湿度不足を補うには十分ではありませんが、1日に幾度か霧吹きでシリンジを行います。花こそ咲いてはいませんが、春に立派な花を咲かせるためには、この冬のいたわりが絶対に必要です。子供の生長を見守るように、焦らず、気長に可愛がるようにしましょう。春には、きっと貴方の思いをかなえて可愛い花を咲かせることと思います。

 

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