家内への秘密

 
   

明日、高校時代の同窓会がある。
この時代にひそかに心を寄せていた娘も来るとのことで、
この年になってもなんだかドキドキ、ワクワク。
でも本当は、もっと恋焦がれた人がいた。
神戸出身の画家小磯良平のエッチングのなかの少女。
なにか変でしょう?
いまどきのマニヤックな若者が、
半裸で駆け巡るアニメの美少女主人公にとりつかれるのと同じでしょうか?
神戸市立美術館の柿落としで公開された憧れの小磯良平の作品展のなかで、
ひときわ輝く気品のある美しい少女。
小磯良平の作品は美術館でも手に入れられないほど高価なもの。
でも、そのちっぽけなエッチングの少女が、僕の側にいたら・・・。
僕の生涯の夢・・・叶わないから夢。

私には神様が降りてきてくれることがあるらしい。
ときおり、想像できないほどの幸運に恵まれることがある。
昨年のある美術オークションで、偶然、その少女に再会した。
体中の血が逆流し熱くなった・・・、
気がつくと、無我夢中で・・・競り落としていた。
そう、彼女は今、私の手のなかで微笑んでいる。
幸せです、私は。

その価格・・・家内には絶対に言えない 秘密 その一。

家内への秘密、ほんとうはもっともっとある。
そっと買い続けたパフィオ・・・秘密 その二、三、四、五・・・・
幾つまで続く。
領収書のように残ったラベル。
数えると目がくらむほど。 
暗くなる。




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