パービセパルムの仲間と
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(3)インドシナ半島の中東部(ベトナム)
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デレナティー |
デレナティの発見 デレナティが自然から採集されたのは、今までにわずか2度だけである。最初 の記録はベトナム北部のトンキン地区である。この株は品種名の由来となったデ レナット(M.Delenat)により1913年にヨーロッパで初めて紹介され、翌 年、グィラウミン(A. Guillaumin)によりフランスの園芸協会誌に記載され た。しかし残念なことに、このオリジナル株は第1次世界大戦中に枯れてしまっ たという。その後、1922年に南アナンのナトランで再発見された(この株も やはりトンキンで採集されたものであろうという説が有力であった)が、それか ら現在に至るまで全く発見されていない。 一方、現地は10年以上にもわたる ベトナム戦争で自然は取り返しがつかないほど破壊され、もはやこの地域での再 発見は期待できそうにもないと誰もが考えていたに違いない。いままで我々が手 元で栽培していたデレナティは、グンゼンホーエル(E. Gunzenhauer)により1 970年に初めてセルフクロスされて得られた実生株の子孫である。 1980年も後半になると、ロスチャイルディアナム(rothschilianum)やサンデリアナム(sanderianum)のように絶滅と伝えられてきた貴重な原種が次々に再発見されてきたが、デレナティもまた、その神秘のベールが剥されることになった。 デレナティは、再発見に夢を託していたホーチミン(旧サイゴン)市のラン業 者、トラン・キム・クー( Tran Kim Khu )氏が1992年の12月、2度目の デレナティ発見に記載されていたナ・トラン(Nha Trang)から届けられた多くのパフィオペディルム中に、いかにもブラキペタラムの仲間と思われる(デレナティ?)株を見いだした。そして、1993年6月、ついに紛れもなく本当のデレナティーの初めての花が開いた。多くの関係者は、デレナティはベトナム北部に分布しているだろうと考えていたに違いないが、予想に反して南ベトナムのナ・トラン近郊で発見された。ここはかつて2度目のデレナティが発見された場所として記録されているが、多くから疑いの目で見られていたところである。しかし実際は、記載どおりのナ・トランに間違いなかったのだ。このようにして再発見されたデレナティは、紛れもなくデレナティそのものであった。夢が現実となった今、新たな問題が持ち上がっている。乱獲と海外流出である。長い戦禍にも免れ、ジャングルのなかで安寧な日々を送っていた取るに足りないほどの可憐な花が、今や白日のもとに晒らされ、原住民による乱獲の暴挙を受けているという。まことに残念な話である。ベトナムがデレナティの故郷であることは疑う余地のない事実である。願わくは、自然からの採集を最小限にとどめ、デレナティのセルフクロス、あるいは、シブリングクロスにより現地で増殖したフラスコ苗を全世界に提供したらどうだう。いずれの国も、いかなる業者・愛好家も、心から安心して受け入れてくれるに違いない。ランの自然からの採集は多くの問題をおこし続けてきた。かつては採集者が限られており、自然の破壊が進まない程度にしか採集されなかった。しかし、このような供給では現代の世界的な需要をとうてい賄えるものではなく、ついには「お金」にものを言わせる時代になってしまったのである。ワシントン条約によりパフィオペディルム原種の輸出入が禁止されている現在でも、その実状は複雑である。一方、さまざまな珍しい原種のセルフクロス、あるいは、シブリングクロスによる増殖が各国で行われているのも事実である。しかし、どうもしっかりとした「哲学」に裏付されていないようだ。原種の増殖は原産地でのフラスコ生産が最も理にかなっており、今後是非推進して欲しい政策である。デレナティがその最初の良い例になることを願って止まない。 デレナティが発見されたところはベトナムの中南部、ベトナム、ラオス、カン ボジアの三国の交わった国境あたりから海岸近くまで高い山々が峰を連ねている ところである。そして、意外にもデレナティは海岸からわずか20kmほど内陸 のエ・ラム・トゥン(E Lam Thuong)と呼ばれるニン(Ninh)県とホ(Hoa) 県の県境に当たるところで、ファー(Pha)川の支流に沿った高山の南斜面に限 って生育している。標高は700〜900メートルくらいを上限にして麓近くま で広く分布している。ここでは川の支流に沿って苔むした大きな岩がゴロゴロと 連なった沢をなし、これらの岩の間には腐葉土混じりの砂利に苔が青々と覆って いる。デレナティはこのような苔混じりの腐葉土を好み、岩の間に点々と群とな って生育している。疎らにみられる10メートルくらいの木の枝葉に遮られて昼 間の直射光は当たらないが、完全な日陰でもなく明るい。この地域は4〜11月 が雨期にあたり、時には一週間も雨が降り続けることもある。そして、蒸し暑い 毎日が続く。7〜8月が最も暑く、標高700〜900メートルの高地では日中 の最高気温が25〜30゜Cくらいになるが、麓では40゜C近くまで上がるる という。一方、12〜3月は乾期で、比較的涼しい季節となる。特に、12月と 1月が最も寒い。麓では夜の最低気温は20゜Cくらいしか下がらないが、高地 で15〜18゜Cくらいまで下がる。一年をとおして湿度は極めて高い。高地で は、夕方から翌朝まで深い霧におおわれるという。このように低地から高地まで 幅広い高度差にかかわらず広範囲に生育しているデレナティは、その違いが株の 大きさに現れているという。すなわち、温度差の大きな高地で見られる株は大柄 で、一方、常に高温の低地では小さくまとまったような株になっているという。 もちろん両者とも同じデレナティであることは言うまでもない。現地での開花期 は雨期にあたり、5〜8月に暫時、花を着ける。しかし本格的な雨期がはじまる 直前の5〜6月に最も多く、あたりはデレナティの淡いピンクに覆われるとい う。 |
カンタン栽培メモ 生育には16゜C〜20゜Cの比較的高温、多湿が好ましい。多肥栽培によって好結果が得られる。この様な人工的環境では病気にかかりやすいので、換気あるいは温室内空気を撹拌することに心がけ、また、病虫害予防対策のため薬剤の噴霧を 怠らないようにする。開花には比較的低い温度が必要であると言われるが、上記 温度でも花芽を分化し開花する。水を好むので、コンポストを乾かさないように する。コンポストにはミックスコンポスト(石と木質材)でもミズコケ植えでも よい。クリプトモスやバーク単用のコンポストでも良い。特にクリプトモス単用 で良い結果を出す。光は夏には50〜60%、冬には30〜50%の遮光をす る。初心者が栽培すると、生育が滞り年々小さくなっていく等の話を聞くが、そ の多くは低温乾燥状態で栽培されているのではないかと思われる。高温(冬の最 低温度18度くらい)で栽培すると生育はすこぶるよい。 |
デレナティーはミックスコンポストでも、クリプトモスでも生育はよい。でも、私には水苔はどうもうまく行きませんね。私は水苔植が下手ですから ・ ・ ・。 左はクリプトモスによる栽培で、生育は最も良いと思われます。しかし、クリプトモスが劣化して植え替えるのが大変ですね。 | |
下左写真は、最初から石植で栽培したもので順調な生育を示しています。下右の写真の下部は、当初クリプトモスで栽培していましたが、植え替えしなければならなくなったとき、面倒になって腐って柔らかくなったクリプトモスの上からセラトン(セラミック系石才材)を突っ込んで行き、最終的に植え替えをしないでミックスコンポスト植に変更したものです。巧く行くものですね。自分でも驚きました。失敗したものはありません。 |
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