パービセパルムの仲間と
その栽培(その2)

(2)中部(中国南部、雲貴高原からベトナム北部 ) ・・・・・ミクランサム、マリポエンセ、エマーソニー

ミクランサム

var. ミクランサム

 ミクランサムが雲南省南東部のベトナムとの国境に近い麻栗 で最初に発見さ
れたのは1940年である。意外に早くから知られていた品種であるにもかかわ
らず、J.TangとF.C.Wangにより公式に記載されたのは1951年のことで、中国での新しいパフィオペディルムの発見というトピックスは10年以上も放置されていたことになる。さらに、この報告は中国の雑誌であったことから、実際に
我々の知るところとなったのはそれからさらに20年以上も経た1970年の終
わり頃、アルメニアカムとほぼ同じ時期となった。当時、我々趣味家はアルメニ
アカムと共に雲南省で続々と発見される新種に目を見張るばかりであった。ミク
ランサムを含めて中国雲南省で発見された新しい原種は、何れもデレナティーと
よく似ていた。かつて、デレナティーはベラチュラムやニビウムと同じ仲間とし
て、ブラキペタラムという亜属に分類されていたが、唐沢・斉藤博士により、デ
レナティーとこれら新しい原種(ミクランサム、アルメニアカム、マリポエン
セ、エマーソニー)はブラキペタラムとは異なるパービセパルムという新しい亜
属に分離された。セパルが比較的小さいこと、ポーチが不均衡なほどに大きく発
達していること、花茎が長い等がパービセパルムに属する品種の共通の性質であ
る。花の各部分を観察すると、株柄の割には大きな花を咲かせる観賞価値の高い
品種である。
 雲南省南部から広西自治区南部にかけて石灰質のライムストーンがカルスト地
形を構成している広大な丘陵がある。最高峰は北西部にあり海抜はおよそ2000メートル。ゆっくりと南東に向かって低くなり、最も低い谷間では海抜80メ
ートルとなる。南から見ると、亜熱帯の低地から急激に反り上がった丘陵とな
り、トゥーニャン川などの巨大な河川は、独特の渓谷を構成しながら拭うように
して東の海洋に向かっている。この丘陵は貴州省の南部一帯を占めることから雲
貴高原と呼ばれている。この地域の気候は複雑で、冬の大陸性気候と、夏のモン
スーン気候が地形と複雑に絡み合って地域的な独特の気候を構成しているのであ
る。海抜1000メートル以上の高地は亜寒帯のような冷涼な気候を示し、750メートルくらいは1年中、春か秋のような温暖かつ冷涼な地域で、夜は冷え込むが、温暖な地域である。ミクランサムは雲貴高原の1000メートル地帯に比較的広く分布し、隔たった地域に依存するミクロの気候に適応した4つ(ワシントン条約締結以降にさらに1種が見つかって現在は5種、また、ベトナムの新変種を入れて6種となる)の変種が報告されている。雲貴高原にはサンコウと呼ばれるライムストーンの大きな山が竹の子のようににょきにょきと首を並べている。ミクランサムはサンコウの中腹当り、棚状になった所や岩のくぼみや割れ目にライムストーンの砂が泥状に蓄積したところを好む。特に、東向きを好み、朝日の反射光はまばゆいほどに明るい。風当りは強く、株は常に乾燥している状態で、ライムストーンの泥は水分を保持するうえで重要な働きを担っている。この地域の気候は、地域により若干のズレはあるものの比較的似ている。4月から9月までは、湿度の高い南、或は南東のモンスーンが吹く。特に、4月は雲貴高原の南側一帯の朝夕は濃い霧で覆われる。ミクランサムは高さ20メートル近くもあるヤシの葉の下や、竹やシダの下でかなり強い遮光のもとに生育している。雨が降ったときにできる雨水の流れにはかからないような近くのくぼみや割れ目にコロニーを形成している。根はライムストーンの泥の中に広がり、リゾームは30cmくらい伸ばしているものが多い。夏(7月〜8月)の日中の最高気温は28〜30度、夜は18〜22度。曇った日が多く、時には大量の雨が降る。冬は11月から翌年の2月の始めまでで、大陸から乾燥した北西のモンスーンが吹き付ける。しかし、晴天が続くため、昼間の温度はかなり上がる。日中の最高温度は27度、夜の最低温度は4〜5度まで下がる。夜は、凍てつくような低温になるが、株は冬の間は決して濡れることがないため凍りはしないし、強い乾燥した寒風に対応できる葉になっている。ミクランサムの株の地上部は、4月の濃霧と夏の大雨以外は決して濡れることはないが、ライムストーンに含まれた水は根を乾燥させることはない。この寒さと休眠が開花をもたらすと言われている。2月の中旬から3月は季節の変わり目で、南からの湿った暖かいモンスーンが吹き始め、天候は急激に悪化する。激しい雨は降らせないものの霧のような雨に見舞われる。この期間の悪天候の最高温度は15度、夜になってもあまり変化せず10度くらいになる。開花は冬の終わり、1月から2月に多いが、さらに北部や高地に生育するコロニーは、やや遅れて2月から3月、3月から4月に開花する。

(1) ミクランサム Var. ミクランサム
(Paph. micranthum var micranthum)
 シーチャン( 江),マリポ(麻栗 ),ワンシャン(萬山)近郊。雲貴高原
の東部、ニャニン(南寧)の北部でミクランサムの分布では最南の地にあたる。
海抜600〜800メートルの比較的低地に分布する。
micranthumの中では最も大きな花を咲かせ、色彩も濃色である。観賞価値は最も高いといえる。ポーチの上部から半分〜2/3くらいが桃色を帯び、脈も明確にみられる。中にはポーチ全体が濃桃色を示すような個体もある。

(2) ミクランサム var. マーギナータム
(Paph. micranthum var marginatum)
 雲貴高原の南東、ベトナムとの国境からわずかに北に入ったナポ地区、海抜
1000メートルの比較的低地で、シールン(西龍)などトゥーニャン川の峡谷
に分布する。花はmicranthum var micranthumに比べるとやや小さいが、ペタルやセパルの基部は黄色が強いものが多い。ポーチには上部からおよそ半分の位置までピンクの色彩がのるが、micranthum var micranthumよりやや薄い。

(3) ミクランサム var. イクステンダータム
(Paph. micranthum var extendatum)
雲貴高原の西部、ルンリン(龍林)やシールン(西龍)の近郊、紅水河の流
域、トゥーニャン川の峡谷が見おろせる海抜1000ー1100メートルのとこ
ろに分布する。切り立ったライムストーンの山々の北東を向いた崖を好む。くぼ
みに泥炭混じりのライムストーンの泥中に根を這わせている。ここは7月から1
0月の中旬まで南東から湿って暖かいモンスーンが吹き寄せる。10月から翌年
の4月までは、北西の乾いて冷たいモンスーンが吹く。この時期は晴天が多く、
昼間の日差しは強い。株には直射光は当たらないが、反射で非常に明るい。冬の
昼間は50度、夜には35どまで下がる。
 ポーチはわずかに基部に桃色を帯びるが、純白と言えるほど白く、脈も見られ
ない。ペタルの編目は中央より外側に明確にいるものが多い。

(4)ミクランサム var. エバニューム
(Paph. micranthum var eburneum)
ルイホウやルンリン(龍林)近郊。雲貴高原の北部、北緯25度の、ミクラン
サムの分布の最北端である。 最北の地であるが、夏には南東のモンスーンの影
響で、湿度が高く、日中の最高温度は80度にも上がる。ミクランサムの株には
日中の直射光は直接当たらないが、朝日は直接当たるところもあり、反射光でき
わめて明るい。4つの変種の中では最も色彩が薄い。micranthum var micranthumに比べると、花は小さく白色の強い花を咲かせる。ポーチは純白と思われるほどに全体的に白色を示し脈はほとんど見られない。基部にわずかな桃色を帯びる。また、ペタルやセパルには光沢がある。

(5) ミクランサム var. ガンクシー
(Paph. micranthum var ganxii)   
 ワシントン条約締結以降に発見された中国では最も新しいミクランサムの変種(?)である。おそらくその分布域は中国では最も南に属すると思われる。白色味の強い花を咲かせ、特にポーチはほとんど全体が白色を帯びるものがほとんどである。また、ポーチの形態も丸い風船状と言うより、やや先の尖った提灯状と言えるだろう。

注意:5つの変種を花の形態から的確に区別することは難しい。しかし、色彩と
花の大きさからPaph. micranthum var micranthum と Paph. micranthum var marginatum 、及び、Paph. micranthum var extendatum と Paph. micranthum var eburneum はそれぞれ極めて似ていると思われることから、ポーチの色彩が桃色を帯びる前者と、白色の後者という大きく2つの変種(グループ)に分けるとわかりやすいであろう。

(6) ミクランサム var. ベトナメンセ
(Paph. micranthum var vietnamense)

 最近の発見で、新しい変種(?)がベトナムで発見された。花としては(5)のガンクシーに近い。澄んだ桃色の色彩と、ポーチの白さに特徴がある。

カンタン栽培メモ
 ミクランサムはもともと過酷な環境で生育しているが、温室のようなより適切
な環境で栽培すると、生育はよいようだ。しかし、開花には、本来の環境に近い
条件にする必要がある。生育には冬の最低温度を15度くらいがよい(株の生育と開花のテクニックは異なる!)。遮光は1年を通じて50%くらい。多肥を好まないので、3月から7月の生育期にのみ、少な目の固形肥料、あるいは、規定のさらに2〜5倍(4000〜10000倍)に希釈した液肥を与えるとよい。コンポストはクリプトモスかバークの単用でもよいが、ミックスコンポストが好ましい。水苔とは相性が悪い。生育がよいと、1本の親株から地下茎を伸ばして数本の小苗を発育させる。小苗は最低でも1本の根が出るまでそのまま1年くらい放置するのがよい。開花には、晩秋から冬を経て、少なくとも15度以下の低温が必要である。できれば10度前後まで下げたい。また、この時期には、低温ばかりでなく、日光が必要とされる。晴天の日には十分に日光浴をさせるように心がける。アルメニアカムよりやや高めの温度がもよい。

私は、ミクランサムは原則としてミックスコンポストに植えることにしている。クリプトモスでも良い結果を出しているのでクリプトモスの利用も問題ではない。アルメニアカムよりやや水を抑えめにする。やや・・・です。

パービセパルムの仲間とその栽培(その3)へつづく

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