.

アルバの系譜
.

C. walkeriana f.alba 'Orchidglade'

”The World of C.walkeriana & Hirookas Collection” 誌に
掲載した記事から(一部加筆修正)
.

<アルバの系譜>

アルバの歴史は、人間の欲望が大きく影響した歴史とも言えます。
1960年頃、ブラジルのリオデジャネイロ州立植物園から
ワルケリアナのアルバの株が突然と消えてしまいました。

その後、同じ個体と思われるC.walkeriana fma.alba'Orchidglade' が、
1965年にアメリカのJ&Scully社からAOSに出品されFCCを受賞し、
1970年代にそのセルフクロスから出た'Perfect Charm' AM/'74、
'Pendentive' AM/'77や'Diamond Bright' AM/'78などの
良個体がAOSで入賞しました。

'Pendentive'が審査された際には、その個体が交配種ではないかと
議論された事も知られています。
その'Pendentive'はメリクロン苗が作られ日本にも輸出され、
アルバのブームに繋がっていきました。
現在ベテランの趣味家の中には、ペンデンティブに魅了されて
ワルケリアナを始めた人もいるほど、魅力的な整形花でした。

メリクロン苗の中から変異個体が花を丸く大きくし入賞花が続出すると、
趣味家は蘭屋さんでそれを捜し回った程でした。
セルフクロスやチポとのシブリングクロスからも整形花が数多く出て、
1990年代の入賞花の多くはこれらの子孫達でしたが、
他のワルケリアナとは雰囲気の異なる花達でした。

これらの株が広く出回るに連れて、(多くの意見が聞かれる様になりました。
ここでは詳細は省きますが、)幾つかの花や株の特徴から
C.loddegesii の血が入っているのでは無いかとの声が
多く聞かれる様になって行きました。

(そんな背景から日本ワルケリアナ協会(ACWJ)では、
2000年の発足に先立ち、設立準備委員会の議論の中で
'Pendentive'の取り扱いが議論され「ペンデンティブは
ワルケリアナに含めない」とし、審査対象からも外しました。)

その後2003年に「あのC.walkeriana var.alba 'Pendentive' の謎に迫る」の
タイトル記事がJOGAレビュー誌vol.4(2003/11)に掲載されました。
著者は、鈴木有城氏(ブルーメンインセルオーキッド)です。

内容は、C.walkeriana fma.alba'Orchidglade'がブラジルから
アメリカに渡った詳しい経緯、J&Scully社でのセルフクロスや
メリクロン作出の詳細と、2002年の岐阜大農学部のカトレヤ属のDNA鑑定等から、
「'Pendentive'を含む'Orchidglade'系が野生から生まれた何らかの雑種の
可能性は否定できない」と結論付ける一方で'Pendentive'の
交配親としての園芸的価値を評価しています。
(この記事は(著者の了解を得て)英訳され、ACWJ No.4に掲載され
ブラジルのACWから全土に広まり、ナトラルのアルバの価格が上がりました。)

ナトラルのアルバは古くから数個体発見されていましたが、
アメリカから逆流入されたOrchidglade系に比べ人気が有りませんでした。
殆どがNSで8~9cm、ペタル幅で3~3.5cmのトンボ型で、Orchidglade系の
10cmと4.5~5cmの丸花には見劣りしました。
しかしこれを契機に、ピュアーアルバ(純粋のワルケリアナ・アルバの意味)の
丸花を求めてアルバ同士の交配がチャレンジされましたが、
捻性が低い個体が多くなかなか成功しませんでした。

ワルケリアナの世界のDNA分析は、2003年に岐阜大学農学部で
行われたものが日本では最初と思われます。
実はこの研究のサンプル提供に、本著の著者(広岡、佐藤)が協力しています。
より正確に表現するとサンプルの殆どは2名が提供したものなのです。

事の始まりは、岐阜羽島で毎年正月三日に開催されていた
「冬咲原種カトレアを鑑賞する会」(田村ひろみ氏主催:1999年のみ京都開催、
2000〜2010年)の2001年の会場での岐阜大の松井鋳一郎さんとの立ち話でした。

丁度C. walkeriana fma.alba 'Pendentive' がワルケリアナの世界の話題に上がり、
趣味家や業者を交えてその「交配種疑惑」が面白楽しく語られていました。
彼は中国からの研究者のテーマとして、この疑惑もDNA分析で分かるのではないかと、
サンプルの提供を依頼されたのでした。

その後、サンプルは「バックバルブではない葉の先端1cmを
カット」したものとの連絡を受け送付しました。
当時はカミソリで切った痕に殺菌剤を塗布した株が
幾つも並んでいたのを思い出します。

生憎、交配種は所有していなかったので、C. Angle Walker、C. O'brieniana等
数株は蘭屋さんから購入し、C. nobilior の銘品等は広岡さんに依頼し、
提供しました。alba 'Pendentive' は松井さんの所有株を使用しました。

以下は、この論文に関する個人的な見解と関連情報をまとめたものです。
(図表の引用)Fig.2
論文の適要から一部を引用すると『(前略)これまでC. nobilior あるいは
C.loddigesii との交配種と考えられていたC. walkeriana var.alba 'Pendentive' は
C. walkeriana アルバ品種と同一のクラスターに分類された。(後略)』と、
alba 'Pendentive' の疑惑を解消した様に受け取れる文章になっています。

2001〜2002年頃に出回っていたアルバ個体は、alba 'Pendentive'系と
alba 'Orchidglade'系で、ナトラル(山採りの自然個体)の
アルバ個体は日本に殆ど入っていませんでした。
必然的にサンプルはこれらから選ばれた訳です。

論文が書かれた当時は、alba 'Orchidglade' に関して「疑惑」を抱いている人は
極少数で、一般には純粋なワルケリアナと認識されていました。
そんな訳で論文では、'Pendentive'は'Orchidglade'系と同じグループに
分類されたので、交配種ではないとの結論になり、
発表当時はそのように受け止められていました。

その後、鈴木有城氏の記事もあり、ブラジルとの情報交換等で、alba 'Orchidglade'の
交雑種疑惑説が浮上し、DNA分析を改めて見直すと、
その疑惑の裏付けが分析結果に表れていました。

論文タイトル:
RAPD分析によるCattleya walkeriana Gardn., Cattleya nobilior Rchb. f.およびCattleya loddigesii Lindl.の系統分類Randomly Amplified Polymorphic DNA Analysis for Establishing Phylogenetic Relationship among Cattleya walkeriana Gardn., Cattleya nobilior Rchb. f. and Cattleya loddigesii Lindl.(金国光、内藤俊栄、松井鋳一郎:岐阜大学)
(この論文は、インターネット上で園芸学会のサイトからダウンロードすることが可能です。)
.

C. walkeriana f.alba 'Maria Augusta' (natural)
(2018.2.1)